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美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 2002 > 「三重の子どもたち展」について 毛利伊知郎 三重の子どもたち展報告書(2002.12)

「三重の子どもたち展」について

毛利伊知郎

今年度の「三重の子どもたち展」は、10月からの美術館休館に伴って例年より会期が半年ほど早まったことに加えて、美術館の展覧会担当者に異動があったことから、短期間で準備を行う必要があった。

昨年度の展覧会から5か月ほどしかたっていないために、第2部出品作品の減少が危惧されたり、第1部のワークショップが熊野市という遠隔地で行われ、しかも実施時期と展示時期とが近接していたために、展覧会の準備過程では例年と異なる点がいくつか生じた。

第2部で危惧された出品作品の大幅な減少は杞憂に終わり、例年通り展示室は子どもたちの作品で埋め尽くされた。今回の展示を見ていて、気になる点が二つほどあったので、問題提起として記しておきたい。

その一つは展示全体に関わることである。それは、近年来館者からも指摘される事柄で、あまりにも作品数が多いために落ち着いて鑑賞ができないということである。これは、展示作業にあまり時間をかけられないという現実的な問題、あるいは第2部をどのように性格づけるか、どのような作品を出品するかという考え方にも関わる事柄なので、是非の判断は非常に難しい。しかし、個人制作の小形作品と共同制作の大形作品とが混在しているために、小形作品が大形作品の中に埋没し、鑑賞しにくい状況が生まれているのは否定できないであろう。近年、大形の共同制作作品が多くなりつつあることを考慮すると、何らかの対策が必要かもしれない。

「発見! わたしの村 わたしの町」という、比較的ゆるやかで多様な解釈を可能にするテーマ設定もこのことと無関係ではないと筆者には思われる。「発見! わたしの村 わたしの町」というテーマが付けられるようになってから数年が経過したが、来年度以降の展覧会を考えていくにあたっては、このテーマ設定を再検討することも一つの選択肢にはなるだろう。

また、関係者の議論が必要だが、個人制作と共同制作が混在する状況を変えるために、何らかの具体性のあるテーマに基づく共同制作作品のみで第2部を構成するというのも一つの試みではないかと思われる。

第2部展示に関するもう一つの問題は、大形の共同制作作品の増加と関わることである。近年、幼稚園を中心として多くの園児・児童が参加・制作した大形作品の出品が増加している。このこと自身はむしろ喜ばしいことだが、大人の手が入った作品、あるいは共同制作といっても個人制作品の集合体が少なくないこと、昨年度までは宣伝行為であるかのような印象を与える学校名の表示が見受けられたことなどは、展覧会の主旨とも関わる見過ごすことができない問題といえるだろう(学校名表示の問題は、今年度から標準方式を導入することで解決が図られつつある)。

幼稚園児や低学年児童が展示に耐える物理的構造を備えた大形作品を制作する場合、大人の手助けを必要とすることはやむを得ないことだろう。教育活動の一環として幼稚園や学校等で制作される場合、様々な現実的制約等があるかもしれない。しかし、主題の選択・表現方法など作品を成立させている内容に関しては、極力子どもたちの自主性が尊重された作品が出品されることを期待したい。

大人の手が強く感じられる作品の出品は以前からも指摘されていたが、それとともに個人制作品の集合体が増加しつつあることが近年指摘されている。これは、より多くの子どもたちが本展に参画するという点で喜ぶべきことだし、集合制作品が持つ意味も単純には否定できない。実際に成功している作品が出品されているのも事実だ。

しかし、本来的な「共同制作作品」と個人制作品の「集合作品」とでは、その意味が異なるだろうし、個人の制作品を集合させる必然性についてどれだけ検討がなされたかがむしろ重要であると思われる。単純に結論は出せないのだろうが、本展における共同制作作品が持つ意味については関係者が今一度議論する必要があるのではなかろうか。

ところで、第1部のワークショップは、今年度は熊野市で実施された。詳細は別頁に譲るが、熊野市で12会場目となったワークショップも、今転機にあるといえるだろう。その大きな理由の一つは、来年度から小規模ながら参加体験型の活動にも使用できる施設が当館に新設されることである。また、こうしたワークショップと全く無関係とはいえない、小中学校の総合的学習への支援活動が美術館でも今年度から行われるようになったことも背景にある。

もちろん、今後も美術館外での教育活動が大きな意義を持ち、実際の活動が様々なかたちで行われることはいうまでもない。しかし、限られた人材と資金を効果的に活用していくために、館内での活動とともに館外活動の内容・規模等も、当館の活動全体の中で再検討される必要がある。

館外ワークショップに関しては、テーマ設定、ワークショップの構造、参加対象者の年齢層、作家の選定、実施体制、規模など、理念面・現実面の諸要素が検討の対象となろう。今後館外のワークショップを実施する際に、必ずしも従来の内容や方法にとらわれない、新しいスタイルを試みることも一つの選択肢ではないかと考えている。

従来の美術館の概念にとらわれずワークショップに大きな可能性を認める立場の他、時代が移っても変わることのない美術館固有の基本的な役割を重視する中でワークショップの在り方を考える立場など、美術館が行うワークショップに対する見方は一通りではない。

美術館の普遍的な役割や機能、わが国美術館界の状況、三重の地域性、当館固有の性格など、様々な要素を総合的に検討した上で、この美術館にとってのワークショップの意味づけがなされることが望ましいのではなかろうか。

次回の「三重の子どもたち展」は2004年1月頃の開催が予定されている。準備期間が長いことを好機ととらえて、関係者間の議論を深めていきたいと考える次第である。

(もうり・いちろう 三重県立美術館学芸員)

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