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第五章 契月の素顔に触れる〜模写・写生帖、参考資料〜

第三章でみたように、一九二二(大正十一)年の欧州視察は、独自の画風を求めて模索を続けていた契月に大きな影響を与えた。契月が異国の地で目にし、心に響いた作品とはいかなるものだったのか。このことを考えていく上で、欧州でおこなった模写の数々は、契月の関心の在処を直接的に示す貴重な資料であるといえよう。現存する模写が、滞欧期に手がけたすべての模写でないことは容易に想像できるが、本章で紹介する十五件の模写に写し取られた西洋絵画が、契月の心を捉えたこともまた事実であろう。契月は西欧で多様な美術作品に触れたと思われるが、現存する模写からは、ルネサンス絵画への先鞭をつけたイタリアのジョットや国際ゴシック様式の作品など、ルネサンス以前の作風への嗜好をみることができる。関心ある部分だけを切り取り、ところどころ書き込みをおこなった模写からは、念願の欧州で西洋絵画と向き合う契月の真摯な姿勢も垣間見ることができよう。また、これらの模写は、欧州視察以降の契月作品を考えていく上でも欠かすことはできない。

一方、写生帖も模写同様に、画家の問題意識や制作過程などを観る者に教えてくれる。作品を完成させる過程で繰り返し描かれた女性の顔や手の表情、衣装などを写した頁、滞欧時の感動と興奮を生き生きと描きとめた頁、静物などを日々の鍛錬として描いた頁など内容は多岐に渡る。これら一頁一頁の積み重ねが、ここまでみてきたすべての作品へと繋がっていくといっても過言ではない。本画とは異なり、作家が第三者に見せることを前提としていない写生帖は、時として本画以上に、画家本来の手の動きや、画家の思考の跡を遺しているともいえるだろう。

最終章では、模写、写生帖に加えて、最初の師・児玉果亭に送った書簡、長年愛用した硯や文鎮なども紹介し、契月の素顔に迫る。


(道田美貴)

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