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美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 2008 > 千住博 毛利伊知郎 液晶絵画展図録

千住博
Senju Hiroshi

1958年東京生まれ、日本

1980年代半ばに始まる日本画家千住博の出発点は、自身が生まれ育った東京の都市風景を描くことであった。しかし、やがて画家の関心は人工的な都市から自然や宇宙、時の流れなど人智を越えたものを描くことへと移っていった。

そうした自然界の神秘に目を向けて制作され大きな話題となったのが、1995年の第46回ヴェネチア・ビエンナーレで優秀賞を受賞した「ウォーターフォール」であった。

滝について画家は、「その中に生と死、希望と絶望、光と闇、静と動、明と暗があり、重力によって勢いよく下に落ち、重力に逆らってしぶきが跳ね上がる・・・そういうふうにこの世界のあらゆることを両義的に表している」と述べている。このように自然を見る千住の眼は、滝だけではなく国内外の森や林、火山、砂漠、氷河、海、空などにも向けられていった。

また、千住は日本画家としては珍しく、公共空間に自身の作品を設置することに強い関心を抱いている。彼は言う、「(前略)その時人々が私の作品を”芸術”と思って接してくれていなくても一向に構わない。とにかく誰かが見てくれる、そのことは描く私を勇気づけ、生きる力を与えてくれる」と。

自然の現象を通じて世界の本質に迫りたいという画家の関心と、人間と絵画とが結ぶであろう様々な関わりを期待して描かれたのが、2004年に羽田空港第二ターミナルに設置された《朝の湖畔》であった。
《朝の湖畔》に描かれている水面や木々を揺るがせ、あるいは飛翔する鳥などをデジタル処理によって表現したのが、本展出品作である。従来の日本画では想像すらできなかった表現は、西洋絵画をモチーフにしたパソコンのスクリーンセーバーにヒントを得たものであるという。ここには「芸術というのは、その時代の科学の最先端と結びついている」と考え、「日本画といわれている表現にはこんなにもいろいろな可能性があるのだ、ということを伝えたい」という千住博の芸術観が集約されているといえるだろう。


主要関連文献:

『千住博画集』 求龍堂 1990年
『千住博画集 水の音』 小学館 2002年
『千住博展 フィラデルフィア「松風荘」襖絵を中心に』図録 山種美術館 2006年
『千住博の滝以外』 求龍堂 2007年
『千住博の滝』 求龍堂 2007年


公式サイト

http://www.hiroshisenju.com/

(毛利)

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