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チリーダは意外にかわいいかもしれないという話

チリーダの代表作といえば、バスク地方サン・セバスティアンの海に面した《風の櫛]X》をはじめとする屋外彫刻を挙げることに異論は出ますまい。屋外作品は当然移動させるわけにはいきませんし、屋内用の作品でもしばしばきわめて重量のある点が、チリーダがこれまで日本であまり紹介されてこなかった理由の一つなのでしょう。実際今回の出品作で最も重い《森W》は、移送用の木箱を含めると1200kgにもなり、人力だけで扱えるようなものではありませんでした。

そうした意味では、屋内用彫刻やマケットを核にした今回の回顧展は、あくまでダイジェスト版に留まるというべきなのかもしれません。ただサイズが小さいからこそ、大規模な作品と相対した時には大きさの陰でかすんでしまいがちな、しかし重要な一面が浮かびあがってくることもあるのではないでしょうか。今回もそんな風に気にとまった点が一つありました。

たとえば《抱擁[》をご覧ください。縦に伸びあがる直方体の上方で、くねっと枝分かれした腕二本がタイトルどおり、やはり二段に分かれた角柱をきゅっと抱きしめています。よく見れば下方の直方体と映った部分も、二つ、というか段差のある抱きしめられた方も二本の角柱を並べたものなので、三つの角柱を貼りあわせたようなのです。密着しているけれども三つであり、三つの存在だけれど一つであろうと抱きしめるさまは、ある意味で愛らしいとすらいってよいかもしれません。

もちろんこれは高さ16.5cmの小品だからそういえるのであって、それが2mにも3mにもなれば感じ方はおおいに変わることでしょう。しかしこの作品での腕状の部分もふくめて、チリーダの作品にくりかえし現われる半円というか鉤型というか鍵型というか招き猫の手というかやっとこ形は、からっぽの空間を受けいれるというかひょいと引っかけるというかたぐりよせる役割を担っているのだとして、その丸みからは、おのれを押しだすよりは、多くの場合今はない何かを受けとめるだけの表情の柔らかさと鷹揚さ、時にほのかなユーモアさえ感じられはしないでしょうか。こうした感触はテラコッタによる《土》のシリーズにも共通しています。

もしかすると作者の本意にはそぐわないのかもしれませんが、こうしたかわいらしさ、表情の柔らかさやユーモラスさなどは、とすると、一見豪放で壮大な屋外作品においても、それらがつねに周囲の空間や内側に抱えこまれた空隙との対話を軸としている点からして、一貫して底に流れる通奏低音だといえぬものでもありますまい。こうした言い方が的はずれなのかそうでもないのか、この点はしかし、それぞれの目で判断していただければと思います。

(学芸員・石崎勝基)

欅しんぶん 第169号 2006.4

チリーダ《抱擁[》1995年

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