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美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 2001 > カディッシュマン、メナシェ 生田ゆき アートになった動物たち展図録 2001

メナシェ・カディッシュマン
Menashe Kadishman

33《朝の光(羊と羊)
Morning Light(Sheep & Sheep)


1988ー89年

7点のインスタレーション:鉄と針金
Installation of 7 pieces, Iron and Wire

高さ 48-70cm
幅 90-160cm
奥行き 60-80cm

作家蔵
Collection of the Artist


カディッシュマン。不思議な名前です。彼はイスラエルの芸術家です。1932年にテル・アヴィヴで生まれ、キブツ(イスラエルの農業共同体)で羊飼いとして働いていました。1959年からロンドンに住み、セント・マーティン美術学校や、ロンドン大学付属スレード美術学校で、アンソニー・カロに彫刻を学び、影響を強く受けます。1950年代のカディッシュマンは、ミニマリストや新構造主義的な作風でした。1967年第5回パリ・ビエンナーレで初めて彫刻に関する賞を受賞しました。イスラエルに戻ったのは1972年のことです。生まれ故郷のテル・アヴィヴで旺盛な創作活動を開始します。世界中の人々に強烈な印象を与えたのは、1978年ヴェネツィア・ビエンナーレでの《シープ・プロジェクト》でした。背中を青色にマーキングされた18頭の生きた羊がイスラエル館を取り巻いたのです。木柵、干し草、牧草、そしてカディッシュマン。もちろん、彼にとって、ヴェネツィアのプロジェクトは、ただ思いつきの奇抜なアクシデントではありません。自然と芸術、生活と芸術、個人の記憶と集団の記憶、作品の内側と外側、対立する様々な問題点の交差する場所として、自分の最も本質的な場所、存在である羊を選んだのです。その後も羊は彼にとって書かすことのできないモティーフであり続けます。1985年にニューヨークのユダヤ美術館に巨大な鉄板でできた《イサクの犠牲》を発表します。聖書の逸話を下敷きにさらに犠牲や誕生といった命にまつわるテーマを掘り下げ続けています。

《朝の光(羊と羊)》もその延長上にあると考えられるでしょう。愛嬌ある羊の頭は無邪気に絡まった針金と結びついて、おどけたような印象を与えます。7体はそれぞれに自分を主張しているかのように思い思いの方向を向いています。床にばらまかれた鏡は、ぶっきらぼうにカットされ、光を反射し、まぶしい光を壁に切り取ってくれます。

カディッシュマンの作品は一見すると楽しく、ユーモアにあふれ、無邪気な遊びに興じているかのようです。しかしその奥には、イスラエルという歴史的にも地理的にも複雑な運命を背負った土地で、芸術を作る、すなわち自己主張するという行為の持つ重みが潜んでいると言えるでしょう。

(生田ゆき)

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