このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

サイト内検索

美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 2001 > アジュ、エティエンヌ 生田ゆき アートになった動物たち展図録 2001

エティエンヌ・アジュ

1907年、トゥルダ-1996年

32《ヒバリ
Les Alouettes (n.inventaire 460)

1974年
1974

ブロンズ
Bronze

68×42cm

協力:ギャルリー・ルイ・カレ
Courtesy Galerie Louis Carre & Cie


アジュの作品が提示するビジョンとは、世界を科学や芸術といった別々の方向からばらばらに分類するのではなく、全体としてそのままに感じることを目指すものだと言えます。一見すると困難な挑戦に思えますが、これには、彼の子供の頃の大切な思い出が深く影響を与えています。

アジュは1907年にトランシルヴァニアのトゥルダに生まれました。父はその地方で有名な獣医でした。物心つくとアジュは父の診療にお供をするのが楽しみになりました。馬車に乗っての隣町への往復は見るもの全てが新鮮でした。森には手つかずのままの自然が残され、住人たちの素朴な生活の姿に魅了されます。「私はいつも自分の中に子供時代の森の思い出を持っています。私の彫・盾フ大部分はそこから来ています。木はそれだけでは十分な入れ物ではありません。枝の間を空気が通り抜けることによってその全体が暗示されます」。

成長するに従って、彼の関心は自然から人々の日常の営みへと移ります。父の仕事場の側の陶器の工房をのぞき、職人たちの自信と確信に満ちた姿勢に感銘を受けます。手によって、世界に直に触れ、自分の手で新たな命を生み出す喜び。アジュが彫刻家への道はここから始まりました。その後、ウジペストの装飾芸術技術学校に入学しますが、彼が自分の造形を確立したのは、1927年にパリに出て以降のことです。

彼の作品の特徴は何より、大理石や鉄を鏡のように磨き、まるで天上の存在のように変貌させることです。そこからブランクーシの影響を読みとることもできます。しかしアジュ固有の特徴として、作品に動きがみなぎり、生命観が満ちているということが挙げられます。さらに、1937年より、作品制作のインスピレーションとして生物学を採用し、自然と芸術と科学の相互作用の視点を取り入れます。

《ヒバリ》という題名は、日本語では単数形も複数形も同じで、耳から入ってきた印象で作品を見ると面食らってしまいます。しかし、それに負けず、じっと向き合うと、突然ヒバリたちが仲良くさえずりながら、空高く飛び立っていく様子を表したのだということに気がつきます。頭、羽根、足、尾、どれ一つとしてくっきりと「リアル」には作られておらず、ただ暖かみのある曲線が楽しそうに踊っているだけです。しかし、全体に漂う上昇への動き、それぞれの親密な距離感などが確実に伝わってきます。澄み切った空に、彼らの美しい歌声があなたにも聞こえてきませんか。

(生田ゆき)


参考文献

Les sculpteurs et l'animal dans l'art du XXe siècle, Monnaie de Paris,1999,p.55-56.
Etienne Hajdu: Text par Ionel Jianou,Arted,Editions d'Art,Paris,1972.

ページID:000056344