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7.世界と人間

人間は自然や社会など様々な環境の中で生きています。環境が急激に変化し、新しい思想や哲学が誕生した20世紀は、自然と人間、社会と人間との関係が芸術の重要なテーマとなった時代であるともいえるでしょう。私たちが生きている世界とは何か、また自然とは何かという疑問を抱く芸術家も少なくありません。ルネサンス以降、初めて新しい視覚表現を提示したキュビスム(立体主義)も、こうした問題意識と密接な関係にあったといえるでしょう。

この章のマックス・エルンストやポール・デルヴォーは、いわゆるシュルレアリスム(超現実主義)の画家たちとして知られています。また、ジョアン・ミロもシュルレアリスムから強い影響を受けて自己の表現を確立した画家の一人です。

シュルレアリスムは、19ZO年代にフランスの詩人ブルトンらによって始められた運動です。その内容を手短かに記すのは至難の業ですが、理性や意識の制約を受けないように精神や思考の働きを変革し、現実の中に内在する「超現実」−絶対的現実−を発見して、真の生を生きようとした活動といえるでしよう。シュルレアリスムは、ヨーロッパだけでなく日本の作家たちにも強い影響を与え、20世紀芸術運動の中で重要な位置を占めることになります。

マックス・エルンストは、コラージュ(貼合せ)やフロツタージュ(こすり出し)など新しい表現技法を大胆に使用して、豊かなイメージの世界を提示した画家です。《ポーランドの騎士》(7-3)は、レンプラントの同名作品からインスピレーションを得ているともいわれますが、デカルコマニー(転写)による複雑な青を背景に、白馬や鳥、岩山などが複雑に重なり合い、現実と空想とが溶け合った豊穣な世界が展開されています。

また、ベルギーの画家デルォオーは、裸婦、駅舎、古代建築、道路などを主要モチーフとして特異な空想世界を描き出しました。《こだま》(7-2)は「街路の神秘」とも題される作品で、他に誰もいない夜の古代都市に同じポーズの裸婦が三度大きさを変えて登場します。デルヴォーの作品は、人間の内奥に潜む官能と神秘への関心を霹わにするとともに、人間が世界に存在することの不可思議さを私たちに提示しています。

一方、19世紀後半に生まれた印象主義を最も忠実に20世紀に継承し、色彩の魔術師とも呼ばれたピエール・ボナールが、富豪へレナ・ルビンスタインのために制作した《にぎやかな風景》(7-1)は、モネの作品に触発されて制作されたといわれています。緑ゆたかなやさしい風景の中にはボナールの妻や愛犬の姿も描き込まれて、人間と自然との幸福な関係が鮮やかに表されています。

一方、古賀春江、山口薫、脇田和、桂ゆきら日本人画家たちの作品も、人間と自然、人間と動物などとの関わりをそれぞれのスタイルで表現しています。その中で、古賀春江の《夏山》(7-5)は画家がパウル・クレーの作品に影響を受けた時期の作品です。童画風の表現によりながら、ここには急速に変化し続ける社会への関心と、昔ながらの自然に寄せる憧憬とが共存しています。

また、山口薫は色彩と形態とが豊かに響き合う造形言語によって、詩情豊かな絵画表現を創造しました。《ボタン雪と騎手》(7-7)には、空間の中の人と動物とが斬新な観察眼でとらえられ、鮮やかに表されています。

人間がこの世界にあることの不思議さ、人間と現実世界との様々な関係、現実世界そのものに対する疑問、内なる世界の追究、こうした課題が20世紀を生きた芸術家たちを強く突き動かしていたのです。

(毛利伊知郎)

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