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3.人間のかたち

私たちは、人間の姿を毎日見ています。たとえ他の人間に出会うことがなくても、鏡さえあれば自分の姿を見ることは可能です。ですから、人間の姿形はことさら問題にしなくても、誰もが理解していると思うのが一般的です。人間に限らずとも、この世に存在するものの形は誰にも同じように見えると考える向きもあるでしょう。

しかし、実はこうした考えは表面的なものにすぎません。実際、人間の身体、あるいは事物の本質的な形とは一体何かという問いかけに答えることは、容易なことではありません。

人間を含む外界をどのようにとらえて表現するか、この根源的ともいえる課題に取り組み、新たな視覚による認識と表現を提示したのが、ピカソやブラックらが20世紀前半に押し進めたキュビスム(立体主義)でした。しばしば説かれるように、キュビスムは「自然を円錐、円筒、球体によって扱う」というセザンヌの言説こ多くを負っています。また、キュビスムという名称は、1908年にブラックが発表した作品が「キュープ(立方体)で構成されている」と許されたことに由来しています。

ピカソはアフリカ彫刻やイベリア美術から刺激を受け、キュビスムの記念碑的作品といわれる《アヴィニヨンの娘たち》を 1907年に発表します。以後、ピカソとブラックの二人は、キュビスムという共通の造形言語を深化させるべく協同作業を行います。

キュビスムは対象を再現的に表現するルネサンス以来の視覚表現を越える新しい表現でした。この展覧会には、1909年から15年にかけてピカソが制作した銅版画が展示されます。1907年の《ふたつの裸体》(3-1)は、対象を幾何学的に単純化された形態で表現しようとするキュビスム初期段階の特徴が顕著な作品であるのに対して、他の3点は多角的な視点からとらえられた形態や多くの線が濃密な空間構成を示す分析的キュビスムの作品です。

一方、20世紀を代表する彫刻家の一人アルベルト・ジャコメッティは、独自の人間像をのこした作家として知られています。肉をそぎ落とされて線のように細長くなったジャコメッティの人物像は、第二次世界大戦後パリでの制作活動の中で生まれたものです。そこには人間の身体性、実在する肉体の中に潜む絶対的なものに肉薄しようとする作者の強い意志を見ることができます。ジャコメッティにとっては、絵画作品も彫刻と同じ重要な意味を持っていました。今回展示される彼の版画にも、人間の存在、あるいは空間を問い直そうとした営みを見ることができるでしよう。

こうした近代以降、西洋の作家たちによって続けられた人間存在の追究は、日本人作家にも大きな影響を与えました。明治時代以降、西洋世界を直接眼にした日本両家たちは、西洋画家たちの作品が持つ圧倒的な実在性、強固な空間構成に眼を見張ることになりました。日本人画家の多くは、そうした西洋絵画を模範として、それを日本固有の表現とすべく様々に奮闘します。

しかし、そうした一般的な風潮の中で、洋画家小出楢重は西洋絵画を相対化して客観視し、日本人であることの自覚に立った作品を描きました。今回展示される小出の《裸婦立像》(3-14)に登場するいかにも日本人らしいプロポーションを示す女性の身体は、そのような画家の強い意志に裏打ちされて強い存在感を放っています。

(毛利伊知郎)

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