学芸室だより
お題:「おすすめの美術館」 出光美術館(東京)
2009年1月(第1回)担当:田中善明
国内・海外を問わず、素敵な美術館はたくさんあって、しかもまだ訪ねていない美術館の数のほうが多いので、ご披露するのは何とも悩ましいところです。マニアックな「おすすめの美術館」は石崎・生田両学芸員に期待していただくとして、5ヶ月間もこのコーナーの当番原稿をサボっていた割には、「そこ、知っとるわ」もしくは「誰でも知ってるっちゅうねん」あるいは「普段のトコじゃん」と、各地の皆様から突っ込まれるおそれがありそうですが、僕はあえて東京丸ノ内の「出光美術館」をおすすめしたく存じます。
出光美術館は、東京駅からもなんとか徒歩圏内にあるので便利です。帝劇ビルの9階の、けっして広くはないフロアに、古今東西の作品が統一感のないようでいて、実はその展示がいろいろな刺激を与えてくれる計算された空間になっています。良質の作品ぞろいということもあるでしょうね。
私ごとで恐縮ですが、守備範囲は近代洋画史と美術品の保存修復ということになっていて、それらに関わる展覧会はできるだけ見るようにしています。でも、その一方で混沌とした状態に妙な落ち着きを感じる関西人の血がそうさせているのか、単に齢を重ねて趣向が変化しているだけなのか、ふらふらと吸い込まれる場所が出光美術館なのです。
書蹟の名品、中国絵画、大和絵など東洋中心の美術品に酔いしれたあと、ルオーやムンク(オスロにあるムンク美術館から毎年3点ずつ借用されているそうです)にばったりと出会い、大きな窓から皇居の杜を眺めつつお茶を飲んで眼を休めたあとは、じっくりと陶片を一枚ずつ味わう。特に陶片室は、エジプトのフスタート遺跡から板谷波山が窯場で納得いかずに廃棄した陶片まで、研究者小山富士夫と三上次男のコレクションが核になっていて、ひとつひとつの引き出しをソーッと引いてみれば中から整然と並んだ陶片がいくつも出てきます。宝箱を開けるようなワクワク感がたまりません。
私立の美術館の所蔵品であっても美術品は皆の財産だという館の姿勢が、展示を見ていて伝わってきます。大きな博物館とは違って館内を歩きまわる苦労がないので、鑑賞に集中できるのも魅力です。
出光美術館 東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
JR有楽町駅の国際フォーラム口から徒歩5分