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「文化」で町おこし

井上隆邦


先頃、北海道・夕張市の財政破綻で“ゆうばり国際ファンタスティック映画祭”が中止に追い込まれたが、この程、嬉しいニュースが飛び込んできた。地元の映画愛好グループ“ゆうばりファンタ”が映画祭の復活に向けて動き出したというのだ。“文化”による町おこしの成功事例として17年の歴史を刻んできた映画祭だけに是非復活させ、20年、30年と継続して欲しい。

“文化”による町おこしという試みは様々な形で行われている。一例が文学賞の制定だ。この種の文学賞、全国に30以上はある。ただ、その大半は、地元ゆかりの作家に因んだものが多く、“ピカリ”と光るものは案外少ない。

福井県坂井市丸岡町が“新・一筆啓上”という文学賞を出している。これなどは成功している事例であろう。着想が面白い。“おせん泣かすな、馬肥やせ”といったフレーズがヒントになったのだろうか、短い文章を募集するのが特色だ。毎回、一万件を超える応募があるという。

レベルの高さを誇るのは、金沢の“泉鏡花文学賞”だ。昭和48年の開始以来、津島佑子、吉本ばなな、桐野夏生など錚々たる人々が受賞している。受賞者の顔ぶれを眺めていると、金沢という街の文化に対する姿勢が垣間見え、センスの良さが光る。加賀百万石の“文化力”なのだろうか。

海外でも“文化”による町おこしは珍しいことではない。良く引き合いに出されるのが、イタリアで開催されている現代美術の祭典“ベニス・ビエンナーレ”だ。最先端の美術を全世界に向けて発信する事業である。ファッション流行の先駆けとなる街が、パリ、ミラノ、ニューヨークであるとすれば、ベニスは、その美術版ともいえる。百年以上の歴史を誇る祭典だ。

ベニス・ビエンナーレは19世紀末、当時のベニス市長が発案したのが始まりである。嘗て地中海貿易の拠点であったベニスは文化遺産に恵まれた街だが、こうした過去の文化遺産に頼るだけでは、街の将来がおぼつかないと市長が決断、“ベニス・ビエンナーレ”が始まったという。ビエンナーレが始まった当初は、“訳の判らない作品を展示して、どうする”といった批判もあったそうだ。斬新な試みは、いつの時代も批判されやすい。ただ凄いのは、こうした雑音に惑わされることなく、百年以上持ち堪えたことだろう。イタリアという国のなせる技か。

再び話を日本に戻したい。“文化”による町おこしで成功している事例としては、映像分野では山形国際ドキュメンタリー映画祭がある。質の良い記録映画の紹介で定評がり、国際的にも注目されている。新潟県の過疎地域で開催されている現代美術の祭典“越後妻有アート・トリエンナーレ”は国際性を保ちつつも地域密着型だ。バランスが程よい。海外から一流のクラシック演奏家を招き、講習会や演奏会を行う草津国際音楽祭は今後、新たな展開が期待出来そうだ。草津といえば、日本有数の温泉地だが、今後は、海外からの観光客誘致も視野に入れ、音楽祭との連携が図られるそうだ。将来が楽しみである。

“情報”や“コンテンツ”が尊ばれる今日、今まで以上に“文化”への関心が高まっている。また、その力を活用する動きも活発化している。日本各地でこうした動きが起こっていることは結構なことだ。ただ、物まねは困る。“オンリー・ワン”で“刺激的”な事例が数多く登場することを期待したい。街のためにも、そして、オール・ジャパンのためにも。


(中日新聞・みえ随想2007年3月4日掲載)

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