仏歴代大統領の斬新な“作品”
井上隆邦
フランスの歴代大統領の仕事で印象に残るのは、退任に際して記念碑的な“ハコもの”を残していることだ。多分、こうした発想は、凱旋門の建築を命じたナポレオン以来の伝統だろう。
過去数代の大統領をとってみても、ポンピドー・センター、オルセー美術館、ルーブル美術館の“ピラミッド”などが頭に浮かぶ。昨年退任したシラク大統領も“ケー・ブランリー”(人類学博物館)を作った。
まるでプラント工場のように配管が露出した巨大なポンピドー・センターは、建設当時、そのデザインの斬新さを巡って賛否両論が巻き起こった。オルセー美術館は、廃業となった駅舎を大改装の上、美術館に衣替えさせた代物。今日の“エコ時代”を大胆に先取りしている事業だ。“ピラミッド”を作ったのは社会党出身のミッテラン大統領。“ピラミッド”が立つルーブル美術館と言えば嘗ての王宮。その前庭に鉄骨とガラスをふんだんに使った超近代的な“ピラミッド”を出現させるという演出は如何にも革新系の大統領らしい。貴族社会への強烈な皮肉が感じられ、心憎い。
フランスという国は一方で歴史や伝統を大切にするが、他方で未来への挑戦も忘れない。“斬新なこと、大胆なこと”には実に意欲的だ。歴代大統領の“ハコもの”を眺めていると、その心意気が伝わって来るから面白い。
さて、今回登場した若手のサルコジ大統領は何を残すのであろうか。既に、大統領の心の片隅では思案が始まっているのではないだろうか。だいぶ先のことであろうが、世界の建築界に衝撃を与える様な“ハコもの”を期待したい。
(朝日新聞・三重版2009年4月 カフェ日和第4回)