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美術館 > 刊行物 > 学芸室だより > 学芸員の仕事紹介 > 学芸員の仕事紹介(9) 美術館の学芸員について 井上隆邦 学芸室だより

学芸室だより リニューアル版

お題:学芸員の仕事紹介⑨

2007年4 月(第9回) 担当:井上隆邦


「美術館の学芸員について」

一般の方から「学芸員はどのような職業ですか」と言った質問をよく受ける。確かに学芸員と接点のある人は限られているので、こうした質問が出るのも不思議ではない。
 良く比較の対象にされるのが、研究者である。両者とも調査研究を行う点では似通っているが、その成果の評価者は異なる。研究者であれば、評価者は主としてその分野の専門家だが、学芸員の場合は、展覧会の入場者である。大半はごく普通の美術愛好者である。

学芸員が担っている仕事を子細に見てゆくと、実に広範多岐に亘ることが判る。企画立案、出品交渉、会場構成、会場デザイン、図録執筆といった仕事の他、様々な雑用まで含まれる。業務量は膨大だ。また、海外の美術館と仕事をすることになれば、外国語能力や交渉術も身に付けなければならない。

学芸員が膨大な業務を処理するにあたって要求される資質の一つは、実務能力だろう。処理すべき仕事に優先順位を付け、外部の人間や資金も活用の上、仕事を纏め上げる技術が求められる。作家の丸谷才一さんは学芸員は、“プロデューサー”だという。言い得て妙だ。

“プロデューサー”型の学芸員は一般に、フットワークが良い。例えば、展覧会の予算が不足している場合には、自ら積極的に資金の調達を行う。また、こうした学芸員は広報マインドも高い。広報マインドがあれば、展覧会の“売り”や“目玉”といった仕込みにも注意が向く。結果として観客動員に繋がることは明らかだ。

“プロデューサー”型は長所も多い反面、短所もある。学芸員という仕事は地道な調査・研究を伴うので、“仕事の間口”が広すぎると何事も中途半端になりやすい。研究領域での専門性がないと良い成果は得られない。“プロデューサー”型も“度”を超すと、企画は大衆迎合的となり兼ねない。かといって、学芸員が自らの専門領域を極端に限定し、そこに閉じ籠もるのも困る。“たこ壺”型になると、世間の動向、或いは予算や広報といった問題への関心が希薄になり、展覧会は、研究成果の発表の場と化してしまう。観客あっての“展覧会”という視点が不可欠なことは論を待たない。

より充実した美術館運営を目指すには、学芸員が現在担っている仕事を改めて整理・分類し、職制を設けて作業の分業化を計ることが必要であろう。ただ、理想的な体制は一朝一夕に実現するものでもない。当面は、専門性の涵養は当然として、“プロデューサー”的な感覚も併せ持つ学芸員の育成が重要と思う。こうした人材の育成を通じて“魅力的”で“社会に開かれた”美術館運営を目指したい。

(中日新聞文化欄
2007年4月13日掲載)展覧会のもうひとつの楽しみ方

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