常設展示1984年度【第1期展示】 1984年4月3日~7月8日
第1室 瀟湘八景
瀟湘とは中国江南の名勝地洞庭湖に注ぐ二川、瀟水と湘水との合流地域をさす呼称とされるが、洞庭湖中の溝湘の浦付近の呼称ともされ明確ではない。画題としての瀟湘八景は特定の地をさすものではなく、湿潤で風光明眉な江南の景観をかりに8カ所に定めて描いたもので、北宋の文人画家宋迪がはじめて描いたと伝えられる。現存する古い作例としては南宋末の伝牧谿筆のものが有名である。日本でも室町時代以降たびたび描かれ、狩野元信、狩野山楽らの作品が知られ、また近代にはいっても橋本雅邦などによってこの画題は描きつづけられ、特に1912年(明治45)の文展には横山大観、寺崎廣業の瀟湘八景が発表され注目された。横山操の瀟湘八景は近代的な造型感覚を基礎にたらしこみなど水墨画の伝統技法を駆使してダイナミックな画面をかたちづくり、瀟湘八景の歴史に新たな一頁を書き加えたものである。
作家名 | 生没年 | 作品名 | 制作年 | 材質 |
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横山 操 | (1920-1973) | 瀟湘八景 1 山市晴嵐 2 遠浦帰帆 3 洞庭秋月 4 瀟湘夜雨 5 烟寺晩鐘 6 漁村夕照 7 平沙落雁 8 江天暮雪 |
1963 | 紙本墨画 |
楠部 彌弌 | (1897- ) | 彩(えん)花宴花瓶 | 1981 | 陶磁器 |
第2室 明治・大正の洋画
1893年(明治26)、フランス留学から帰国した黒田や久米桂一郎は、ラファエル・コランの外光派の作風を伝え、黒田らが結成した白馬会には藤島武二・岡田三郎助・長原孝太郎ら明治後期に活躍する画家たちが多く集った。藤島武二は、1893年7月から三重県立尋常中学助教諭として3年間を津で過ごし、その後に東京へ出て文学雑誌『明星』を中心に起った浪漫主義的文芸思潮を反映した作品を制作するようになり、1911年(明治44)29歳の若さで亡くなった青木繁と共に、明治浪漫主義絵画の旗手として一時期を画している。
明治も40年代に入ると、『白樺』や『スバル』などの文芸雑誌によって後期印象派やフォーヴィスムなどの西洋美術が紹介され、大正期に入って村山槐多・小出楢重などの画家たちによって様々な個性的活動が展開された。1926年(大正15)には1930年協会が結成され、佐伯祐三や前田寛治らが創立会員として活躍し、その継続的発展と見なされる独立美術協会が1931年(昭和6)に第1回展を開催したが、この団体には遅れて須田国太郎が参加している。
作家名 | 生没年 | 作品名 | 制作年 | 材質 |
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藤島 武二 | (1867-1943) | セーヌ河畔 | 1906-7 | 油彩・キャンバス |
藤島 武二 | (1867-1943) | ローマ風景 | 1908頃 | 油彩・キャンバス |
藤島 武二 | (1867-1943) | 裸婦 | 1906頃 | 油彩・キャンバス |
藤島 武二 | (1867-1943) | 朝鮮風景 | 1913 | 油彩・キャンバス |
藤島 武二 | (1867-1943) | 裸婦 | 1917頃 | 油彩・キャンバス |
藤島 武二 | (1867-1943) | 海 | 1931頃 | 油彩・キャンバス |
藤島 武二 | (1867-1943) | 日の出 | 1930 | 油彩・キャンバス |
藤島 武二 | (1867-1943) | 婦人像 | パステル・紙 ※ | |
青木 繁 | (1882-1911) | 自画像 | 1905 | 油彩・紙 |
青木 繁 | (1882-1911) | 海 | 1904 | 油彩・キャンバス ※ |
長原 孝太郎 | (1864-1930) | 自画像 | 油彩・キャンバス | |
長原 孝太郎 | (1864-1930) | 入道雲下絵 | 油彩・キャンバス | |
長原 孝太郎 | (1864-1930) | 裸婦 | 油彩・キャンバス | |
村山 槐多 | (1896-1919) | 自画像 | 1914-5頃 | 油彩・キャンバス |
小出 楢重 | (1887-1931) | パリ・ソンムラールの宿 | 1922 | 油彩・キャンバス |
小出 楢重 | (1887-1931) | 裸婦立像 | 1925 | 油彩・キャンバス |
佐伯 祐三 | (1898-1928) | 自画像 | 1917頃 | 油彩・キャンバス |
佐伯 祐三 | (1898-1928) | サン・タンヌ教会 | 1928 | 油彩・キャンバス |
前田 寛治 | (1896-1930) | 風景 | 1924頃 | 油彩・キャンバス |
前田 寛治 | (1896-1930) | 裸婦 | 1928 | 油彩・キャンバス |
須田 国太郎 | (1891-1961) | 信楽 | 1935 | 油彩・キャンバス |
第3室 外国作家と三重の画家たち
フランス19世紀には、銅版や石版の技法が著しく発達し、パリの街を緻密に描いたメリヨン、また独自の象徴主義的作風を確立したルドン、その師で特異の版画家ブレスダンらが輩出した。続く20世紀には、シャガールやブラックらが、油彩画と並んで卓れた石版画を制作している。
この展示室では、上記以外に三重県出身の画家たちを採り上げた。
作家名 | 生没年 | 作品名 | 制作年 | 材質 |
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シャルル・メリヨン | (1821-1868) | プチ・ポン | 1850 | 銅版画 |
シャルル・メリヨン | (1821-1868) | パリ・ノートルダムの給水塔 | 1852 | 銅版画 |
シャルル・メリヨン | (1821-1868) | 塔・医学校通り | 1861 | 銅版画 |
ロドルフ・ブレスダン | (1822-1885) | 鹿のいる聖母子 | 1871-8 | 石版画 |
ロドルフ・ブレスダン | (1822-1885) | 善きサマリア人 | 1861 | 石版画 |
オディロン・ルドン | (1840-1916) | ヨハネ黙示録 | 1899 | 石版画 |
オディロン・ルドン | (1840-1916) | ベアトリーチェ | 1897 | 石版画 |
トゥールーズ=ロートレック | (1864-1901) | ムーラン・ルージュのイギリス人 | 1892 | 石版画 |
ジョルジュ・ブラック | (1882-1963) | 葉・色彩・光 | 1953 | 石版画 |
オディロン・ルドン | (1840-1916) | アレゴリー | 1905 | 油彩・キャンバス |
マルク・シャガール | (1889- ) | 枝 | 1956-62 | 油彩・キャンバス |
ジョルジュ・ルオー | (1871-1958) | 十字架上のキリスト | 1939頃 | 油彩・キャンバス ※ |
藤田 嗣治 | (1886-1968) | ラマと四人の人物 | 1933 | 紙・水彩 |
林 義明 | (1890-1973) | 連峰 | 1970 | 油彩・キャンバス |
佐藤 昌胤 | (1907-1970) | 伊勢湾台風 | 1960 | 油彩・キャンバス |
中谷 泰 | (1909- ) | 雪どけ | 1976 | 油彩・キャンバス |
奥瀬 英三 | (1891-1975) | 五月信濃路 | 1963 | 油彩・キャンバス |
岩中 徳次郎 | (1897- ) | Work-81-26-A | 1981 | 油彩・キャンバス |
第4室 戦後美術・抽象絵画
戦後の美術は戦前戦中を通じて自己の思想や表現法を深めながら精進を続けた画家たち、たとえば村井、鶴岡、難波田らによって出発する。また具体美術協会を結成した吉原、元永らは抽象美術の流れに重要な一石を投じた。
作家名 | 生没年 | 作品名 | 制作年 | 材質 |
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村井 正誠 | (1905- ) | うしろ姿 | 1956 | 油彩・キャンバス |
筒岡 政男 | (1907-1979) | 黒い行列 | 1952 | 油彩・キャンバス |
吉原 治良 | (1905-1972) | 作品(赤丸) | 1967 | 油彩・キャンバス |
元永 定正 | (1922- ) | Nyu Nyu Nyu Nyu | 1971 | アクリル・キャンバス |
難波田 龍起 | (1905- ) | 創生A | 1961 | 油彩・キャンバス |
前田 常作 | (1926- ) | 空間の秘儀 | 1965 | 油彩・キャンバス |
杉全 直 | (1914- ) | コンポジションA | 1961 | 油彩・キャンバス |
菅井 汲 | (1919- ) | 森の朝 | 1967 | 油彩・キャンバス |
阿部 展也 | (1973-1976) | R-26 | 1970 | アクリル・キャンバス |
小野木 学 | (1924-1976) | 風景 | 1975 | 油彩・キャンバス |
浅野 弥衛 | (1914- ) | 作品 | 1979 | 油彩・キャンバス |
浅野 弥衛 | (1914- ) | 作品 | 油彩・キャンバス | |
宇佐美 圭司 | (1940- ) | 銀河鉄道 | 1964 | 油彩・キャンバス |
2Fギャラリー・エントラスホール・屋外 彫刻と彫刻家の素画
具象彫刻家として活躍している柳原義達、佐藤忠良、片山義郎らは、的確は対象把握と量感表現を基礎にして、それぞれ個性的な造型感覚を誇示しており、屋外展示の井上武吉、湯原和夫、田畑進らの現代彫刻は、深くつきつめられた造型思考に立脚して、周囲の環境をも支配する力強さを具えている。
またキュービズムの影響を受けたザッキンの作品、それに人間性にあふれる素直な性格を見せるマンズーの「ジュリアとミレトの乗った大きな一輪車」は、マンズー近年の代表的作例である。
作家名 | 生没年 | 作品名 | 制作年 | 材質 |
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柳原 義達 | (1910- ) | 黒人の女 | 1956 | ブロンズ |
柳原 義達 | (1910- ) | 赤毛の女 | 1956 | ブロンズ |
柳原 義達 | (1910- ) | バルザックのモデルたりし男 | 1957 | ブロンズ |
佐藤 忠良 | (1910- ) | 賢島の娘 | 1973 | ブロンズ |
片山 義郎 | (1908- ) | 首(T子の顔) | 1976 | ブロンズ |
井上 武吉 | (1930- ) | My Sky Hole | 1982 | 鉄・ステンレス |
湯原 和夫 | (1930- ) | 無題 | 1982 | 鉄・ステンレス |
田畑 進 | (1944- ) | NOKOSARETA―KATACHI | 1982 | ステンレス・黒御影石 |
井上 武吉 | (1930- ) | My Sky Hole | 1982 | 紙 |
湯原 和夫 | (1930- ) | 無題 | 1982 | 紙・鉛筆・アルミ |
若林 奮 | (1936- ) | 大気中の緑色に属するもののためのデッサン | 1982 | 紙・鉛筆 |
オシップ・ザッキン | (1890-1967) | ヴィーナスの誕生 | 1930 | ブロンズ |
ジャコモ・マンズー | (1908- ) | ジュリアとミレトの乗った大きな一輪車 | 1973 | ブロンズ |
ジャコモ・マンズー | (1908- ) | ジュリアとミレトの乗った大きな一輪車 | 1972 | 紙・鉛筆 |
※印 寄託作品