美術館のコレクション(2005年度常設第4期展示)
2005.12.28~2006.3.26
第1室:昭和の洋画-2
第3期常設展の第1室のテーマは「昭和の洋画-1:風景と抽象」でした。これは、必ずしも昭和を前後の二期にわけて、その前半に重点をおいた構成ではなかったので、今回の(2)においても、昭和後期に焦点をあわせるという風にせずに、1920年代から1970年代にわたって、館蔵品のなかから主要な作品を選ぶという方法をとることにします。具象絵画が必然的に多くなりましたが、必ずしもそれに限定することなく、歴史の上でも大きな変動があったこの時代を画家たちはどう生き抜いたか、社会や環境の変化がどう絵筆によって表現されるにいたったか、そういうことに敏感な画家の作品をとりあげたというわけです。かれらが個々に生きた社会の状況は誰にもわかるかたちで画面に現れているわけではありませんが、「赤い帽子」や「大根」や「母子」や「草原」が描かれるとき、それはそれ自身であると同時に、なにかを象徴する役割のいくらかをきっと果たしているのです。そしてそれが実現されたとき、その作品は傑作だとみなされるといっていいでしょう。
昭和初期に描かれた前田寛治の『赤い帽子の少女』は前田の作品のなかでも有数のものです。部分を正確に画面に移すという写実は、前田の体質をとおすと、錬金術的な変容をうけて、空間は重みをまし、立体感も幾分失ってしまいます。モデルの少女はその面影をひとかけらも残さず、けれど画面のなかで自足する人物にかわっています。この埴輪のような眼をした自足する人物の右手はいったいどうなっているのか、いささか気になっても、それはそれ、いくらみていても見飽きません。
森芳雄の『大根など』は、文字通り大根と買い物籠だけを描いた作品です。他はなにも描いてありません。これだけで作品になるというのは驚きですが、制作された1942年という時期のことをかんがえると、この絵はちょっと違ってみえてくるかもしれません。日本はこのとき戦争という「非日常」の真っ最中でした。そしてこの大根は台風の目のなかのような「日常」に静かにおかれています。
金山康喜の『静物』は室内風景です。しかしよくみると、整っていそうで歪んだテーブルの上のそれぞれの静物たちも、すこしずつ普通ではないようです。人物はひとりも登場していませんが、奇妙な感覚が不在の人間を暗示していて、その視線はかなり遠くから屈折してやってきます。空虚のような、そうでないような気配がみるひとを漠然とした不安に誘うのです。
香月泰男の『芒原』はいかにも香月らしい絵肌をもった作品です。たくさんのものを描いているようであり、ほとんど何も描いてないようでもあります。これは風景は風景でも、心のなかにしか存在しない風景かもしれません。
では、麻生三郎の『母子のいる風景』はどうでしょうか。母子は一体ではなく、少し離れて同じ方向をみています。赤っぽい画面をよくみると樹木や家並が背景になっていますし、さらによくみると、空には太陽も出ています。題は「風景」となっていますが、ここで描こうとしたのは風景というよりは、「社会」です。母子は風景の一部分なのではありません。社会への広がりをもった「人間のいる」絵です。
(東俊郎・学芸員)
安井曾太郎 | 1888-1955 | 静物 | 1950(昭和25)年 | 油彩・キャンバス | |
須田國太郎 | 1891-1961 | 信楽 | 1935(昭和10)年 | 油彩・キャンバス | (財)岡田文化財団寄贈 |
高畠達四郎 | 1895-1976 | オーヴェル古寺 | 1967(昭和42)年 | 油彩・キャンバス | |
前田寛治 | 1896-1930 | 赤い帽子の少女 | 1928(昭和3)年 | 油彩・キャンバス | |
鳥海清児 | 1902-1972 | 彫刻(黒)をつくる | 1953(昭和28)年 | 油彩・キャンバス | |
斎藤義重 | 1904-2001 | 作品 | 1963(昭和38)年 | 油彩・合板 | |
坂本繁二郎 | 1907-1968 | 箱 | 1960(昭和35)年 | 油彩・キャンバス | |
鶴岡政男 | 1907-1979 | 黒い行列 | 1952(昭和27)年 | 油彩・キャンバス | |
鶴岡政男 | 1907-1979 | 窓 | 1965(昭和40)年 | 油彩・キャンバス | |
森芳雄 | 1908-1997 | 大根など | 1942(昭和17)年 | 油彩・キャンバス、板 | |
森芳雄 | 1908-1997 | 女 | 1952(昭和27)年 | 油彩・キャンバス | |
脇田和 | 1908-2005 | 鳥と横臥する裸婦(女) | 1955(昭和30)年 | 油彩・キャンバス | |
中谷泰 | 1909-1993 | 陶土 | 1958(昭和33)年 | 油彩・キャンバス | |
香月泰男 | 1911-1974 | 芒原 | 1968(昭和43)年 | 油彩・キャンバス | |
麻生三郎 | 1913-2000 | 母子のいる風景 | 1954(昭和29)年 | 油彩・キャンバス | |
木村忠太 | 1917-1987 | 初夏 | 1975(昭和50)年 | 油彩・キャンバス | |
菅井汲 | 1919-1996 | 森の朝 | 1967(昭和42)年 | 油彩・キャンバス | |
小野木学 | 1924-1976 | 風景 | 1975(昭和50)年 | 油彩・キャンバス | |
金山康喜 | 1926-1959 | 静物 | 1951(昭和26)年頃 | 油彩・キャンバス |
第2室:三重の近世絵画
池大雅 | 1723-1776 | 山水図 | 制作年不詳 | 紙本淡彩 | |
韓天寿 | 1727-1795 | 倣伊孚九山水図 | 1774(安永3)年 | 紙本墨画 | 寄託品 |
曾我蕭白 | 1730-1781 | 林和靖図屏風 | 1760(宝暦10)年 | 紙本墨画 | |
曾我蕭白 | 1730-1781 | 松に孔雀図 | 制作年不詳 | 紙本墨画 | (財)岡田文化財団寄贈 |
増山雪斎 | 1754-1819 | 花鳥図 | 1794(寛政6)年 | 絹本着色 | |
増山雪斎 | 1754-1819 | 花鳥図 | 1814(文化11)年 | 絹本着色 | |
増山雪斎 | 1754-1819 | 雁図 | 1815(文化12)年 | 絹本着色 | |
歌川広重 | 1797-1885 | 丸清版・隷書東海道五十三次 全55点 | 1847-51(弘化4-嘉永4)年頃 | 木版・紙 | UFJ銀行寄贈 |
青木夙夜 | ?-1802 | 琴棋書画図 | 1795(寛政7)年 | 絹本墨画淡彩 | |
鶴亭 | ?-1785 | 韓天寿賛天産奇葩図 | 制作年不詳 | 紙本墨画 | |
月僊 | 1741-1809 | 山水図 | 1741-1809 | 紙本淡彩 |
第3室:19,20世紀の西洋美術
ブレイク、ウィリアム | 1757-1827 | ヨブ記 全21点+表紙 | 1825年 | エッチング・紙 |
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ルドン、オディロン | 1840-1916 | ベアトリーチェ | 1897年 | リトグラフ・紙 | |
ルドン、オディロン | 1840-1916 | ヨハネ黙示録 全12点+表紙 | 1899年 | リトグラフ・紙 | |
ルオー、ジョルジュ | 1871-1958 | 受難 多色刷り全17点 | 1935-36年 | シュガー・アクアティント、アクアティント・紙 | |
ルオー、 ジョルジュ | 1871-1958 | これでお終いだよおやじさん! (『ミセレーレ』より) |
1927年 | アクアチント・紙 | 寄託品 |
ルオー、 ジョルジュ | 1871-1958 | 秋 | 1933年 | リトグラフ・紙 | 寄託品 |
ルオー、 ジョルジュ | 1871-1958 | 三人組(『悪の華1936-1938』より) | 1938年 | アクアチント・紙 | 寄託品 |
ルオー、 ジョルジュ | 1871-1958 | 誇り高き女(『悪の華 1936-1938』より) | 1938年 | アクアチント・紙 | 寄託品 |
ギャラリー
堀内正和 | 1911-2001 | 水平の円筒 | 1959(昭和34)年 | 鉄・御影石 | |
向井良吉 | 1918- | 発掘した言葉 | 1958(昭和33)年 | ブロンズ | 作者寄贈 |
豊福知徳 | 1925- | 構造 | 1963(昭和38)年 | 木 | |
保田春彦 | 1930- | 柱と壁 | 1989(平成1)年 | 鉄 | 作者寄贈 |
保田春彦 | 1930- | 壁の構造 | 1990(平成2)年 | 鉄 | 作者寄贈 |
新妻實 | 1930-1998 | 眼の城 | 1988(昭和63)年 | ポルトガル産黒御影石 | |
若林奮 | 1936-2003 | 中に犬2 | 1968(昭和43)年 | 鉄 | |
マルコ、アンヘレス | 1947- | 高速道路(連作「通行」) | 1987年 | 鉄、アスファルト、脂 |