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南伊勢で始まった現代美術の“胎動”

 小さいけれど、ユニークな美術館が三重県・南伊勢町の五カ所湾にある。伊勢現代美術館だ。開館して6年と日は浅いが、現代美術に特化した美術館で、この分野では県内唯一の美術館と云っても良い。三ヶ月前には新たに別館(彫刻館)も開設された。この別館は香川県・牟礼のイサムノグチ庭園美術館がヒントになったそうで、700平米程の庭が主たる“展示場”だ。ここに岡本敦夫、林武史、住谷正巳などの石像彫刻が並ぶ。天気の良い日には庭先の雑木林で鳥が鳴き、五ヶ所湾からのそよ風が何とも快い。ここでは時間が止まり、永遠が顔を出す。

 

 伊勢現代美術館は、館長の服部修身さんが私財を投じて運営しているもので、ご本人の本業は広告会社の二代目社長さん。大の現代美術ファンで、その経歴が面白い。その昔、名古屋で画廊を経営していたという。画廊と言えば、結構な商売人を連想しがちだが、さにあらず。画廊経営のいきさつが何とも可笑しい。かつて名古屋にあった現代美術系の老舗、桜画廊にコレクターとして出入りしていた頃、この画廊の店主の勧めで自分も始めたと云う。「やる気はなかった」のだが、桜画廊の店主に「乗せられて」と屈託がない。服部さんは桜画廊に出入りしていた時代に浅野弥衛など、新しい表現を模索している作家たちと親交を結ぶ。出合った当時の浅野弥衛は既に70才に達していたが、作品が売れず、浅野の自宅には作品が山積みになっていたという。

 

 伊勢現代美術館は、名古屋での画廊経営に区切りをつけ、再出発を期して始めたもの。本館は一階と二階合わせて140平米と広くはないが、一階では年三回展覧会を開催している。企画展が二回で、残り一回は所蔵品によるコレクション展だ。所蔵品の点数は300点で、浅野弥衛は無論のこと、ジュリアン・シュナーベル、大沢昌助、稲垣考二など、いずれも服部さんが選んだものばかり。

 

 この美術館で何と言っても素晴らしいのは、若手作家を積極的に発掘していることだ。本館二階の展示場が、そのためのスペース。既に、このスペースで作家の“たまご”50名以上が作品を発表している。服部さんが美大の卒展などで発掘した人たちだ。作家の“たまご”の中にはその後、イギリスやドイツに渡り、腕に磨きを掛けた人もいるという。

 

 服部さんに「将来の夢は?」と尋ねたところ、「美術館の建て増しは、別館でおわり。今後は、若い作家を支援したい。」と。還暦を過ぎた服部さんだが、若手作家の発掘、支援には実に熱心で精力的だ。新しい“胎動”が伝わってくるような美術館である。今後の活動に期待したい。(It)

 

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筆者別原稿一覧/井上隆邦

伊勢現代美術館

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