伊勢型紙は、柿渋で貼り合わせた美濃紙に、独自の彫刻刀で精緻な文様を彫り込む、三重県を代表する伝統工芸の一つです。その起源については諸説ありますが、江戸時代初頭、現在の鈴鹿市白子・寺家地方が御三家の一つ紀州藩領となり大きな後ろ盾を得て以降、伊勢型紙は全国へと販売経路を拡大し、江戸時代中期に質量ともに最盛期を迎えます。 三重県下では、伊勢型紙の本拠地鈴鹿市が明治期以前の古代型紙の膨大なコレクションを収蔵されています。その全貌を確認し、広く発信することを目指して、昨年度(財)ポーラ美術財団の助成金を受け、調査を行いました。これは、所蔵先である鈴鹿市との共同事業でもあり、さらには型彫師の団体である伊勢型紙技術保存会からも御協力をいただくなど、多くの方々のご支援を賜わるものとなりました。 詳細な内容は調査報告書である『鈴鹿市所蔵 古代型紙目録』(2008年)をご覧頂くとして、ここでは、作業の規模の伺える数字を紹介するにとどめます。調査枚数1878点、調査日数27日、調査関係者12名。中には元禄や宝永、正徳(17世紀末~18世紀初頭)といった元号が記された型紙も見つかりました。また、二枚、三枚を組み合わせることによって文様を描き出す、今では復元不可能な程複雑な技巧をこらした型紙には、時間を越えた緊張感に圧倒される思いでした。 実はこの古代型紙の一部は、来年3月18日~22日にかけて当館県民ギャラリーで開催されます「伊勢型紙と江戸小紋」展にてご覧になれます。さらに今回は特別に会期中、群馬県重要無形文化財保持者藍田正雄氏による江戸小紋染めの実演も企画されています。是非足をお運びいただき、貴重な技を間近で見、その迫力を肌で感じて下さい。(Iy) |