液晶絵画 Still/Motion
本展は当館にとって同時代の映像表現を紹介するはじめての展観となります。ただ企画の眼目は、最新の機材で同時代の映像を映してみようという点にとどまるものではありません。現時点で実現されたもっとも高精細な画面に、ある問題意識を共有すると見なしうる映像を映すことで、映像というもののあり方自体をあきらかにできるのではないか。その際映像に対するアプローチとして、スティル=静止/モーション=動きという視点が選ばれました。静止した像とは絵画や写真を、動く像は映画、ビデオなどをとりあえず念頭に置いています。すなわち今回の企画は、画像がネットワークに飛び交う現在の情報環境において、像の高精細さゆえに画像のあり方が、絵画と動画との交わり、そして交わっても残る互いの特性という点からあぶりだされるのではないかという試みなのです。動きが止まる時、あるいは止まっていたものが動きだす時、動きと静止のはざまで時間と空間、継起と瞬間はどのような姿を現わすのか、そこに開くのはベルクソン流の持続なのか、それとも時間のつながりがばらばらに寸断された刹那滅論的な虚空なのでしょうか。 こうした問いかけを目に見えるものとするため、現在充実した活動を展開している14名の作家に出品を依頼して準備を進めているところです。屏風状に配した液晶モニターの中で山水が微かな動きを宿す作品(千住)、フェルメールの《絵画芸術》の空間を画家の視線という点から動画化した作品(森村)、縦に配した二つのモニターでそれぞれ人の上半身と下半身がばらばらに動くという作品(鷹野)、壁にあたった光のきわめて微細な変化を映す作品(バウカ)、西欧の伝統的な画題であるピエタや静物を時間の浸蝕にさらす作品(テイラー=ウッド)、ビデオの映像によって印象主義的な絵画を再創造しようとした作品(イーノ)、水墨画的なアニメーション(邱黯雄)その他多彩な作品が展示される予定です。最新の技術と表現行為、絵画という古来の媒体と映像という近代以降の媒体、そして空間と時間とが交差する現場に立ち会っていただければと思います。(Ik) 出品作家 イーノ、ブライアン(イギリス) |