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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > Hill Wind (vol.11~24) > シャガール展今昔 美術館ニュース Hill Wind 15(2007年3月)

シャガール展今昔

テーマ別構成を旨とした前回のシャガール展が1993年1月開催というからにはすでに14年を経ているわけで、何やら慌ただしかったという以上に思い起こされることも乏しいのは、それだけ年をとったのでしょう。図録をぱらぱら繰ってみれば、作品解説で自分の関心に引き寄せて好き勝手書いたりしているのは、赤面のいたりとも進歩なしともいうほかないとして、そういえば、その時出品された《死せる魂》、《七つの大罪》、《ラ・フォンテーヌ寓話集》、《聖書》などの銅版画にいたく感心した憶えがあります。ドライポイントと白い紙との交渉が柔軟でいて鋭敏な空間を生みだしていたことでした。また1910年代から20年代にかけての、とりわけロシアに材をとった作品における、プリミティヴな形態の噛みあいや西欧のそれとは異なる色の選び方も印象に残っています。今回の展覧会ではどんな相貌を見せてくれるのでしょうか。

 

そういえば今回展の企画書を見た時、ゲルショム・ショーレム(1897-1982)の著書が参照源として挙げられていたとの記憶があります。ショーレムは「ユダヤ神秘主義の主潮流」(主著の一つの原題、邦題は『ユダヤ神秘主義』)を、幻想にからめとられることなく批判的な歴史学の対象として確立したユダヤ人の宗教史家です。日本でも管見のかぎりで、前掲書をはじめ単著8冊にベンヤミンとの書簡集が訳されており、またショーレム自身を単独の、あるいは重要なトピックの一つとして扱った研究書も3冊ほど邦訳されています。個々の論点に関しては近年、ショーレムの主張に対する見直しが盛んに計られているのですが、それ自体、その足跡の大きさを物語るものでしょう。個人的にはシャガールよりショーレムに関心があるといっては美術愛好家に眉を顰められそうですが、とまれそうした企画意図が展示内容とどのように呼応することになるのか、楽しみなことなのでした。(Ik)


1993年のシャガール展の会場

1993年のシャガール展の会場

 

作家別記事一覧:シャガール

※この記事は2007年3月27日発行「Hill Wind 15」に掲載されたものです。
 
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