昨年、京都国立博物館で大々的に開催された「曾我蕭白展」をご記憶の方も多いと思いますが、近年、評価の高まっている曾我蕭白は、かつて、伊勢の出身と考えられていたほどにこの地とかかわりの深い画人です。当館でも、1987年【開館5周年記念 曾我蕭白展】、1992年【その後の蕭白と周辺】、そして1998年【江戸の鬼才 曾我蕭白展】と3度の曾我蕭白展を開催、一方で、重要文化財の〈旧永島家襖絵〉をはじめとして、18件の蕭白作品を収蔵、常設展示で紹介しています。
蕭白の出身地が京都であることは、およそ40年前、《寒山拾得図》を所蔵する京都・興聖寺の過去帳の調査で明らかになりました。この興聖寺は、藤堂藩から大きな援助を受けており、その末寺である津の浄明院には、蕭白が滞在し、襖絵を遺したとも伝えられています。このような興聖寺と津との繋がりは、蕭白とこの地方とのかかわりを考える際に重要な糸口のひとつとなりそうです。また、蕭白の生家が、京都の紺屋であり、木綿の産地である松坂地方に何らかの縁故があったのではないか、という指摘もあります。この地方だけでなく、同じく木綿の産地である播州地方に蕭白が長期的に滞在していることも、この説を説得力あるものとしています。いずれの説もいまのところ確証はありませんが、蕭白が一度ならずこの地を訪れていることは事実であり、しかもその滞在がある程度の長期にわたっていることを考えると、蕭白とこの地を結びつける事由があったことはまちがいありません。
すでに述べたように、当館では、折に触れ蕭白作品を紹介してきました。今回の展覧会では、修復を終え美術館に戻ってきた〈旧永島家襖絵〉のうち《松鷹図》、《竹林七賢図》(「曾我蕭白筆《旧永島家襖絵》の修復事業について」参照)、《林和靖図》、播州で制作された《松に孔雀図》、《許由巣父図》など、いずれも蕭白を語る上で欠くことのできない作品の数々を展示します。蕭白の描く賢者たちの印象的な表情、硬質な筆致で緻密に描き込まれた鷹、大胆に画面に伸びる生命力溢れた樹木、人間のように繊細な表情をみせる小動物たち、そして緻密に計算された画面構成…。これまで見知った作品も、隣り合う作品が変わることで、まったく別の表情をみせることが少なくありません。第4室が、蕭白作品の魅力を改めて感じていただく場となることを、さらには、本展が、当館所蔵の〈日本画〉を身近に感じていただくきっかけのひとつとなることを願っています。
(Mm)
※この記事は2006年11月7日発行「Hill Wind 13」に掲載されたものです。
曾我蕭白 館蔵作品一覧
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