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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > Hill Wind (vol.1~10) > 染谷亜里可展

染谷亜里可展

2005年10月8日[土]-11月27日[日]

 

県民ギャラリー

年明けに『吉本作次展』が開かれたばかりの、三重ゆかりの中堅作家を紹介するシリーズは、早くもこの秋、五回目の『染谷亜里可展』を迎えます。

 

染谷の作品は、たとえば、いささか古びた壁紙を貼った壁面やカーペット、あるいは何やらイメージが浮かびだすヴェルヴェット、という風に見えるでしょうか。

 

前者についていささか古びたと形容したのは、さらによく見れば、壁紙なりカーペットの文様が、かっちりした輪郭を保っておらず、今にも崩れ落ちそう、溶けだしそうとも映るからです。後者の作品でも、最初に印象づけられるのは、ヴェルヴェットの毳立って柔らかい質感であり、赤や暗青色といったその色でしょう。イメージはあくまでヴェルヴェットの肌理の内にくるみこまれており、透明な画像として鮮明な輪郭をもって立ち現われることはありません。

 

前者の作品は‘SOAK’というシリーズに、後者は‘DECOLOR’というシリーズに属しています。‘SOAK’は「浸透する」を意味し、ベニヤ板にカゼインと白亜を混ぜた地塗り用塗料を塗布し、その上から自動車の潤滑油であるモーター・オイルで文様を描いたものです(黒っぽい作品では地に墨が塗られています)。オイルを差すと白地は透明化し、文様をなすわけです。カーペットの場合は、不織布(ペーパー・タオル)を8~10枚重ね、層ごとにオイルをスポイドで差して作られます。

 

いずれにせよオイルはいつまでも乾燥せず、時間の経過や環境の変化に応じて混じりあい、広がって、イメージのシルエットは曖昧になっていくということです。

 

‘DECOLOR’は「脱色する」の意味で、既製のヴェルヴェットに、筆に浸した家庭用の脱色剤でイメージを描き、その後水で洗い流して脱色剤を飛ばすという手順で制作されます。

 

双方、支持体に絵具を加えるという足し算ではなく、逆に引き算によって、支持体の内に潜んでいたイメージを掬いだすという特徴を有しています。その際イメージは、支持体の物質性を隠すことなく、しかしそのまま、物質の高い密度の中でこそ輝きだす非物質的な光の様相を帯びることでしょう。そこではまた、時間の緩慢な流れと厚みも感じとることができるはずです。

 

今回の個展では、こうした‘SOAK’による大規模なインスタレーション、近年スタートした『字幕』シリーズをふくむ‘DECOLOR’の作品、それに素描や油彩を加えて展示が構成される予定です。時として壮麗さすら感じさせる、染谷の現在の姿を、ぜひ会場でご覧いただければと思います。

 

(Ik)

 

*10月8日(土)午後3時から、作家自身によるギャラリー・トークが行なわれます。また同午後4時からは、作家を囲んでささやかなティー・パーティーを開きます。

  
 
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