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研究ノート

当館での所蔵品調査とデータベ−スの設計について

田中善明

所蔵品調査

 美術館学芸員にとって、所蔵品調査は業務の基本である。理想としては、この調査を日頃から地道に続け、その積み重ねが常設展示に反映され、ひいては企画展へと発展する流れになろうが、実際には調査を定期的につづけることはむずかしい。ひとえに勤務中の雑事や肥大化する業務の処理が、調査を先送りさせてしまう原因である。当館の場合、個人での研究あるいは展覧会の目的で各自が所蔵品を調査することはあっても、複数の学芸員が共通した様式に従って地道に調査する機会はほとんどなかった。そうした反省もさることながら、全館所蔵品展示が予定に組まれたことが直接の契機となり、1998年2月から月一回の割合で、共通の書式に従い所蔵品調査をはじめることにした。調査は、ごく基本的な項目のみで、公開することもはばかれるが、当館以外の方からのアドヴァイスを期待して掲載することにした。

 まず、調査項目は(fig.1)

 
  1. 作品寸法の再計測と額などを含めた寸法の計測
  2. 作品表裏の署名とその位置、それ以外の記述やスタンプ、ラベルの記録
  3. 付属品に記載されている事項(額縁/タトウ/内箱の箱書き/外箱の箱書き/箱内の文書)の記録
  4. 額縁・マットの状態(現状維持/替えた方がよい/何らかの処置を加える)
  5. 作品の状態の記述 

     

    (修復歴もしくは変更歴)なし/あり(修復方法を記述) 

     

    (状態)修復の必要なし/早急に修復をすべき/修復が必要(重度/中程度/軽度)

 以上の点検項目を調書に記入していくのが基本になる。(1.)の作品寸法は、作品受入を審議する委員会の資料作成時に必ず計測するものであるが、受入が正式に決まる前では、裏面の紙テープを外し額から作品を外すことはできない。そうしたことから、厳密に寸法を計ることができない作品もあった。額縁を含めた寸法の計測は、輸送梱包の計画に役立つことはもちろんのこと掛け軸など、作品寸法と大きくことなる作品は、コンピュータシミュレーションによる展示計画が導入されたときにも利用できる。(2.)と(3.)は、すべて調書に手書きするが、ラベルや記述など、必要と思われる箇所はデジタルカメラで記録(1)している。限られた時間内での調査のため、(4.)と(5.)はその場で損傷状態を逐一記録することはしない。処置が必要かどうか、どういった処置が望ましいかを、その場に居合わせた学芸員が検討し、処置方法の案として調書に記入する。

 

 この調査は、まだ始まったばかりであり、主だった絵画作品だけが終了している段階であるが、これまでに点検項目の大きな変更はない。この調査に参加した筆者個人の感想として、以下のような利点があった。

 
  • 実作品を前に修復の必要あるいは不必要を、全員で確認し協議することができた。修復作品の選定は筆者の分掌であるが、選定のために全所蔵品を点検することはできていない。あきらかに筆者の怠慢であるが、多くは一人で扱うことのできない大きさ、重量の作品であるので、額装を外すことは物理的にも無理であった。この点を調査では克服できているし、ある作品の修復の必要性を説明することも実作品を前にしてならば理解が得やすくなった。現在は、この調査結果を基に修復計画を立てることにしている。
  • 受入後一度も裏蓋を開けていなかったものが多数あり、ベニヤによる作品裏面のシミや、作品をマットに止めていたセロハンテープの硬化などが発見され、紙の落下など事故を未然に防ぐことに役立っている。しかし、本来、水彩、素描、版画などの作品を陳列する前後に、マットやヒンジの状態を必ず点検するのが美術館の業務であるので、これは一応利点といえどもレベルが低すぎる。
  • 人手があるため、ヒートンなど脆弱な吊り金具が取り付けられている絵画は、その場で丈夫な金具に取り替えることができている。常設作品の展示替え時には、このようなゆとりがないため、なかなかできないでいた。ガラス内側の清掃も併せて行っている。
  • 作品に付随する文字情報を、多くの学芸員で確認・解読する事によって精度が高まった。

 それぞれの学芸員には、専門とする得意な分野がある。そして自然と、ある館蔵品については、それを専門とする学芸員の担当となり、他の者は領域を侵さないよう気をつかったりすることがある。学芸員全員で行う調査のもつとも有意義な点は、なによりそうした垣根を取り払うことと、専門分野の網から漏れてしまった作品を全員の責任で汲み上げることにあると思える。

fig,1

fig,1

 

(1)(カメラ本体)FUJIX DIGITAL CAMERA DS-330+(イメージ・メモリー・カード)HG-40+(LCDカラーモニター)SONY XV-M30を使用。通常はJPEG1/8圧縮(約320KB)で撮影し、必要があれば非圧縮(約2.45MB)で撮影している。コンピューターへの読み込みは、FUJIFILM PC CARD READER CR-500を使用している。デジタルカメラは一般の写真に比べれば格段に精度が落ちるが、その場で撮影確認ができるため、撮り直しの必要がなくなった。作品を保護する点でもメリットは大きい。

所蔵品データベース

 これまで、当館の所蔵品データベースは文字データのみをコンピュータに蓄積してきた。データベース用のソフトウェアは二転三転してきたが、今年度から諸般の事情でデータ(2)を「MICROSOFT ACCESS」に移管した(fig.2)。所蔵品データベースの項目数は、前述の所蔵品調査項目の一部をデータベースに蓄積する目的と、1999年インターネットヘの一部公開を目的として25から38に増えた。新たに増えた項目(フィールド)は、「ID」「制作年英文」「材料英文」「署名英文」「来歴」「展覧会歴」「修復歴」「関連文献」「裏書き」「解説」「英文解説」「公開プラグ(外部公開済/非公開/外部公開/内部公開/内部公開済)」、それに6つの「画像」である。ホームページが日本語と英語の二本立てであるため、かなり項目数が増えてしまった。「公開プラグ」に選択項目が多いのは、外部公開に耐えうるデータが揃っていないものがほとんどだからであり、公開は現在の約1500件の作品データを一挙に公開するのではなく、徐々に公開することに決めたからである。また、データがある程度揃った「公開済」の作品であっても、「作品寄贈者の住所・連絡先」等プライバシーに関わる項目はあらかじめ削除して公開することにしている。

 

 外部からの検索方法は、今のところ「作者」、「題名」、それに油絵や日本画といった「分類」の3項目について、部分一致を含む検索を考えている。「制作年代」の検索は、当館の場合ほとんどが近代の作品なので、あまり意味をなさないので止めにした。この3項目であれば、検索のための新たな項目を増やす労力はないが、当館の所蔵品を全く知らない人たちにとっては、非常に扱いにくいものとなろう。できるならば、検索のための「キーワード(件名)」を設けて作品ごとに入力したり、作家一覧などの参照リストを付けたり、ストリー性のある検索方法を考案するなどして利用しやすいようにしたいのだが。 

 

 データベースへの入力は、学芸員が手分けして行っており、今後も状況は変わりそうにない。そのため、「キャンバス」「カンバス」「キャンヴァス」など表記のズレが発生している。そこで、「油彩・キャンバス」など同じ入力を繰り返す、頻度の高い項目については、カーソルがその項目で点滅した時点で選択肢が表れるプルダウン方式にした。時にはどの選択肢にも当てはまらない場合もあるので、完全な選択式ではなく、タイプ入力も可能にした。

 

 画像は、デジタルカメラやフィルムスキャナで入力し、画像だけを集めたフォルダに一旦保存する。データベースには、画像入力欄にどの部分を撮影した画像であるのか、その説明文だけを入力するようになっている。実際の画像を閲覧したい場合は、その説明文をクリックすれば画像がフォルダから呼び出され、画像の枠に表示される方式にした。処理速度がそれほど優れていないコンピュータを使用している当館にとって、この画像呼び出し方式は、できる限りデータベースをスリム化し、検索速度を高めるための苦肉の策である。

 

 デジタル化に向け、あまりお金を使えない当館のような場合であっても、情報の公開にこぎ着けることができつつあるのは、いうまでもなくハードウェア・ソフトウェアの性能が高くなったことと、安価になったことである。所蔵品調査と、その調査結果のデジタル化、そして公開へ、といった具合に曲がりなりにも連動できたところまではよかった。しかし、展覧会準備などに追われて入力は遅々として進まないし、外注できる目処も立っていない。そして、今後これら所蔵品情報をはじめとする膨大な情報をいったい誰が管理するのか、プログラムの修正や他の美術館博物館との連携は誰がするのか、などなど問題は山のように残っている。

 

(たなかよしあき・学芸員)

 

(2)データベース建築をはじめ、インターネットのホームページ作成などは、三重県デジタルコミュニティイズ実験事業(平成9年度〜11年度)の一環で、県立博物館、斎宮歴史博物館、県立美術館の三館が、ウィンドウズを登載するコンピューター会社のアドヴァイスを受けながら、マルチメディアに関心をもち、実験終了後は自力で事業計画を展開していくことをひとつの目標としている。

 

fig,2

fig,2 データベース入力画面(一部)

 

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