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館蔵品から

中村岳陵「都会女性職譜 女給」

 働く女性の姿を捉えたこのシリーズは、「チンドンや」「エレベーターガール」「レビューガール」「奇術師」「女店員」「看護婦」そして「女給」の7点から成り、当初は、20点あまりが予定されていたという。あらゆる職業に就くひとびとを描き連ねるという趣向は、日本美術の伝統的画題である「職人尽絵」を連想させる。きまざまな職種のひとびとを組み合わせ、架空の歌合わせの形式をとる職人歌合絵巻は鎌倉時代から描かれており、また桃山から江戸時代初期には、風俗的興味から生き生きと職人の様子を描く作品が流行した。これらを「職人尽絵」と呼ぶ。

 

 ところで、岳陵は、絵を学ぶものに必要なことのひとつとして、古人先輩の優れた作品をよくみることを挙げている。古典作品の研究にはげんでいた岳陵の内に、先に述べた「職人尽絵」があった可能性は高い。このシリーズは、現代の「職人尽絵」ということもできるだろう。ただし、ここでとりあげられる「職人」は、女性に限られている。この作品が描かれた昭和初期は、まだ社会に出て働く女性が珍しい時代であった。日本で初めてカフェーを名乗った銀座「カフェープランタン」の求人広告をみて集まった4、5人の女性たちは、店で茶や料理を出すという仕事内容を開き、驚き、付き添いの父兄とともに帰っていったという。また、実際に給仕以上のサービスをおこなうカフェーも存在していた。しかし、すべての店がそうであったわけではない。一方では、時事問題に関しても会話のできる知的な女性が魅力的であったという記録も残っている。

 

 「女給」の画面には、衝立にうつる妖しげに寄り添う男女の影とトレイを手にもちながらもその影に目をやる女給の姿が描かれている。全体的に色数はおさえられているが、たらしこみをもちいた壁やテープルの表現、あるいは衝立、カーテンの微妙な色味を加えた白の表現などのテクニックは見逃せない。また、女給のもつ銀色のトレイの上の黄色いカクテルやテーブルの上の赤いカクテルが画面をひきしめており、緊張感のある作品に仕上がっている。

 

 岳陵の描いた『都会女性職譜』には、「職人尽絵」と同様に同時代の風俗に向ける視線を感じることができるが、それと同時に、当時まだ少数派であった、働く女性におくるエールが聞こえてくるようである。

 

(佐藤美貴・学芸員)

 

作家別記事一覧:中村岳陵

中村岳陵 「都会女性職譜 女給」

中村岳陵

「都会女性職譜 女給」

 

1933年

 

紙本著色

 

36.3x37.5cm

 

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