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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.51-60) > シャルル・デスピオ《ポーレット》

シャルル・デスピオ[1874-1946] 《ポーレット》

1938年 ブロンズ、金色パティーナ 49.5×32.5×25cm デスピオ=ヴレリック美術館蔵

 凛としたとでも形容できるだろうか、肩の細さは見ようによっては弱々しく映るかもしれないが、だから逆に、背筋をのばし、顎をこころもち上げた姿勢は空間の中、垂直に立ちつづけようとしている。頭部の大きさに対して確かに細い肩は、たち切られた胸の下でもそのまま厚みを変えず、そのため大地に根ざすような安定感は認められまいが、といって、頭部の大きさとそのくっきりした卵型ゆえ、空気中に溶けいるほどに儚いわけでもない。力強くも堂々としてもいないにもかかわらず、清冽さを感じさせずにいないそのありようは、これを気品と呼ぶことができるかもしれない。

 

 頭部は単に卵型というにとどまらず、ぴんと張った、つまり脂肪や肉の厚みを欠いて、骨をそのまま皮膚が覆っているかのような硬質な肉づけをしめしている。これはさらに、頭髪と衣服の部分での、手にとった粘土のかたまりをなすりつけ、へらで刻んだ跡をそのまま残したかのような柔らかい表面と対比されることで強調される。この点に頭部と胸部との大きさの、不安定にはならず、しかし胸部が頭部をしっかり支えるともいいきれない、微妙なバランスがくわわって、静謐でもあれば緊張を宿してもいる存在感を伝えるのだ。

 こうした存在感はまた、顔の無駄をそぎ落とした造作、とりわけ秀でた額とそれにつながるとおった鼻筋、そして、かすかにあげた顎と対照的になかば閉じかかっているかのような目ゆえ、外に何かを訴えかけようとするよりは、内省的な印象を感じさせることだろう。

 

 単純化された形態によって生みだされる静謐誌で内省的なありよう、これを一つの理想化と読みとれるとして、しかしまた、顔の細部、わけても上に広い頭部から急激に切れこんだ頬、そしてそこに宿る陰は、肉づけの緊張を強めると同時に、生きた個人としてのモデルの個性を刻みつけている。理想化された中でも浮かびあがらずにいない個性の発現によって、世界を前にして、それにとりこまれるのでも攻撃するのでもない、具体的な個人の姿が型どられたのである。

 

(石崎勝基・学芸員)

 

年報/シャルル・デスピオ展

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