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天野裕夫《背美鯨》

1984年 テラコッタ 104×60×50cm 岐阜県美術館蔵

 鯨は鯨目に属し、数メートル以上のものを「鯨」、それ以下のものを「イルカ」と呼ぶらしい。この区別ははっきりとしていないらしいが、なんとなくイルカと鯨はかたちからして違うもののように思える。

 

 それはさておき、天野裕夫が扱ったセミクジラは鯨のなかでも不格好だ。頭部は全体長の4分の1ないしはそれ以上で、下唇は大きく上顎は下方に湾曲し、どこかしら河馬にも似ている。たぶん、海でセミクジラに出会ったら、よほど自分に生命の危険が訪れない限りそのかたちを見て笑ってしまうだろう。セミクジラにはたいへん失礼であることは確かだが、シロナガスクジラなどと比べてみると、やはりスマートさに欠ける。本作品の鯨はステンレスの棒に腹部が突き刺さり、ちょうど飛び跳ねているようである。腹鰭がどちらかといえばザトウクジラのものに近い長さであるが形態はそれほどデフォルメされているように思えない。モチーフをデフォルメさせることが多いこの作家にとって、セミクジラはその必要が無いくらいに魅力ある形態であったに違いない。

 

 今回の展覧会ではもう一点天野の鯨が出品された。《戦艦マンダラ鯨》である。鯨と戦艦が共通したイメージとして存在することは僕も前々からそのように感じていたのだが、ただ、彼の場合それに曼陀羅と臓器などのイメージを重ね、かたちはより複雑になっている。

 

 鯨は西洋の世界でも多義的なシンボルとなっている。鯨の口の部分が地獄の門を表していたり、はたまたキリストの復活と関係があったり、色欲を表していたりと、古来より鯨から受けるイメージは際限なくあることは、現代の作家にとっても鯨はイメージを膨らます格好のモチーフであるに違いない。

 

(学芸員 田中善明)

 

年報/動物美術館展

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