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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.31-40) > ひる・ういんど 第39号 三重県立美術館と美術館教育

三重県立美術館と美術館教育

森本孝

 

欧米の美術館・博物館が、来館者の年齢を考慮した美術館教育活動を継続させた結果、来館者は美術館へ行くことが楽しくなり、飛躍的なリピーターを生んだ現実に触れ、当館においても、そうした美術館活動を参考にしながら積極的に事業を行いたいと考えつつも、我々学芸スタッフは美術館活動の専門家ではないというこだわりから、本格的に取り組むことは日々延期されていた。より価値ある作品を展示すること、展覧会はひとつのドラマであるから、現代の視点からより意味ある企画展を数多く展開することが最も重要なことであると考え、そうした活動に可能な限り時間を費やすことに努力してきた。

 

 

 しかし、本来の鑑賞という行為は来館者が積極的に興味・関心を持って作品に接しなければ成立しないこと、また鑑賞したことによって触発されて行う学習活動が真綿が驚くほど水を吸い込むように自然な行為であり、単に所蔵品を常設展示し、様々な企画展を開催し、企画展に即した美術講演会を行うだけでは来館者の要望に添うことができない現状が発生してきている。

 

 多少の増減はあるとしても、新聞紙上に400字前後の所蔵品に関する解説文を掲載してきたことは、当館の解説活動として特筆しなければならないことであろう。開館以来、学芸スタッフ8名が分担して執筆してきた集積は大きい。現在も新聞社2社、週1本ずつのペースで継続している。

 

 当館の美術館教育活動は、年4回展示替えする「美術館のコレクション」と称する所蔵品の展示空間に、版画の技法解説などとともに、所蔵品解説を常時置くことから始まったのである。こうした解説文は「125の作品…三重県立美術館所蔵品」と題した図録にも活用し、また、2400点に及ぶ所蔵品の文字データをコンピュータに既に入力を終えているので、画像データを今後入力し、文字データと併せて来館者の利用を可能にしたいと計画している。 さらに、1990年度には60本の市販されているVHSソフトの中から希望する番組を選択できるタイプのブースを3台設置、常設空間には所蔵品に関する自主製作ソフトを光ディスクシステムによってご覧いただくブースを2台設置した。特にVHSのブースは当初の予想をはるかに越える利用があり、来館者の学習への意欲が小さくないことが実証される結果となった。

 

 当館が開館した1982年以後に開館する美術館の多くは図書閲覧室を設ける場合が多いが、それ以前の多くの美術館と同様当館には閲覧室がなかったが、本年秋には研修室を改装してハイビジョン・ミュージアム推進協議会が提供するソフトをご覧いただくプロジェクタ1台を併設した図書室を新設する計画である。

 

 こうした来館者の学習活動を可能とすることを充実させながらワークシート、ギャラリートーク、ワークショップという美術館教育活動として中核をなす事業も徐々に質量ともに増加させていくよう計画している。

 

 当館には実技を行える空間が特になく、「三重の子どもたち展」の会期中の子どものための創作広場をエントランスホールで行うなど、この点に腐心しているのが現状であるが、作家の創作に直接触れることを通じて、創作活動を追体験する、あるいは実際に制作する機会は、現代美術を文句なく理解できる貴重な経験である以上、現代作家の公開制作を中心とした形態でワークショップを今後実施したいと考えている。

 

 企画展や収蔵品に関するギャラリートークは、研究の成果を発表する意味であるなら専門家、あるいは学芸スタッフが担当すべき性格のものであろう。本年に開催する韓国現代美術展の会期中には、出品作家によるギャラリートークを実施する予定であるが、作家の制作について直接作家から聴くという機会も重要なことであると思われる。

 

 ボランティア「欅の会」の会員を対象としたギャラリートークは、適宜必要に応じて展覧会担当学芸員が実施しているが、来館者を対象とした展示室内でのトークを実施したのは、1988年の「ドガ展」の会期中のみである。この間に4回行ったが、毎回100名を越える参加者があるという盛況過ぎる状況で、静かに作品と対話することを望む来館者にとっては騒音となってしまう有様で、以後の実施に慎重にならざるを得ないこととなった。

 

 当館には開館直前に結成されたボランティアグループ「欅の会」がある。設立当初からポスター発送など美術館の雑用を処理することに重点が置かれていたが、7年後の1989年からはその活動を逆転して、解説活動、特に小中生を中心とする団体解説を活動の重点とした。来館者がより充実した鑑賞と学習を可能とし、気持ちよく帰られるために何をすべきかを活発に議論し、やれることから始めようと努力を始めた。美術館の概要を説明する団体解説は以前から行っていたが、1989年からは作品の前で子どもたちがどうすれば立ち止まるようになるかを課題として、団体の意志、年齢に即した解説を実施する状況に至っている。美術館教育研究会のメンバーの一人である佐藤厚子氏から2度、教養講座を拝聴する機会があり、所蔵品を展示する「美術館のコレクション」で、展示替えがあっても、常に自分が学んだ自身ある作品が5点あるように、という提案を得て、自分が学習したこと、素晴らしいと感動したことを来館者に伝えようと、来館の機会がより有意義なものにしようと、現在意欲的に取り組んでいるところである。アメリカにおけるボランティア活動のように、今後は当館における美術館教育活動の中心的実践者となればと期待している。

 

 ワークシートの制作については、1991年度に若干の所蔵品と、「ヴィクトリア&アルバート美術館展」と「スペイン20世紀絵画展」の2つの企画展に関するワークシートを作成する計画であったが、小中学校の先生などの協力もあって、「スペイン20世紀絵画展」以後の「本画と下絵…宇田荻邨と近代日本画」展、「第10回三重の子どもたち展」、「ロシア宮廷美術展…エルミタージュ美術館所蔵品による」のワークシートも制作することになった。1991年度は試行錯誤の段階であり、1992年度から本格的に年齢に合わせたワークシートを制作していきたいと考えている。

 

 一方、1989年から美術館に隣接する三重県総合教育センターにおいて鑑賞教育に関する講座が開かれ、91年度には鑑賞教育を研究対象としたプロジェクトチームが結成され、ワークシートを用いた授業、あるいはワークシートの底に流れる質問形式の授業を実践する先生も現れている。実践してみたら児童生徒が非常に興味を示しながら楽しむという反応に驚く先生も多く、徐々に広がりを見せている。特に、横山操の「瀟湘八景」の1点「漁村夕照」に関するワークシートを制作し、コピー(写真)を用いて授業をした後、夏休みに親子で美術館へでかけることを課題とし、親子別々にアンケートを実施した田村尚彦氏(津市立南郊中学校)の実践あるいは作者の立場まで入り込んだ授業をした瀬古久美子氏(松阪市立殿町中学校)の実践は興味深い。何れかの機会に発表されるであろうが、当館を軸として学校や地域が自然な形で連携していく傾向が拡大しつつある。

 

(もりもとたかし・普及課長)

 

美術館教育関係記事一覧

☆「英国国立ヴィクトリア&アルバート美術館展」ワークシートより

 

 17.ヤン・ステーン「エッグダンス:宿で楽しむ農民」

 

ウインダー君: みんなそれぞれ、いろんなことをして騒(さわ)いでいるね。

ママ: そうね。このころの農村(のうそん)の酒場(さかば)のようすがかかれているのよ。

 

ウインダー君: このころは、こうしてワイワイ、ガヤガヤ騒(さわ)いでいたの?

 

ママ: 食(た)べたり、飲(の)んだりしながら騒いでいたようだけど、こんなんだったのかはわからないのよ。こんなことをしてはだめ、という教訓(きょうくん)だったのかもわからないの。

 

ママ: この絵の題名(だいめい)は「エッグダンス」となってるけど、「エッグ」を見つけられるかな?【もんだい15】「エッグ」は「たまご」だよ。

 

 

    こたえ____________________

 

ウインダー君: ママ!「エッグダンス」ってなんなの?

ママ: 手をつないで、おどりながら、たまごを割(わ)らずにころがしていくおどりなの。

 

ママ: 楽器(がっき)を持っている人は楽団(がくだん)なんだけど、なん人の人が楽団(がくだん)かな? 【もんだい・16】

 

 

    こたえ____________________

 

〈こたえ〉

 【もんだい15】 階段(かいだん)の右に手をつないでおどっている人がいるね。その足もとにある。

 【もんだい16】 3人。子どもを忘れなかったかな。 

 

 

☆「100の絵画・スペイン20世紀の美術」展ワークシートより

 

 5.ピカソ「顔」(第1室)

 

 ピカソやブラックなど、キューヴィズム(立体派)の作家は、人間の顔やからだをバラバラにして、いろんな角度から見たそれらを、あらためて組み立てています。

 

1.画面に描かれた人は男の人ですか。女の人ですか。

  (1)男   (2)女   (3)わからない

 

 

2.耳、口、鼻(はな)はどこでしょう?

 

3.この人は横を向いていますか、正面を向いていますか。

 (1) 正面を向いている。 (2)横を向いている。

 

 (3)棟を向いているところと、正面を向いたところが合わさっている。

 

 

4.あなたは、自分の顔をピカソに描いてもらいたいと思いますか。

 (1) 描いてほしいと思う。(2)いやだ!

 

 (3)わからない。  (4)その他(       )

 

 

〈こたえ〉

  1. (2)女
  2. (図示・省略)
  3. (3)
  4. あなたの思うとおり
ヤン・ステーン 「エッグダンス・宿で楽しむ農民」

ヤン・ステーン

「エッグダンス・宿で楽しむ農民」

 

 

パブロ・ピカソ 女の像 1923年

パブロ・ピカソ

「女の像」 1923年

 

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