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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.31-40) > ひる・ういんど 第37号 ヴォランティア 「欅の会」

三重県立美術館ヴォランティア 「欅の会」

森本孝

 様々な機会をとらえて学習したことは正当に評価するという理念に根拠を持つ生涯学習が重視される時代を迎え、その一つの拠点と考えられる美術館・博物館における学習活動を幅広く支えるヴォランティア活動が近年注目を浴びるようになってきた。

 

 しかし当館では1982年の開館を目の前にした8月下旬に、ヴォランティア「欅の会」が既に発足しており、地味ながら着実に活動を展開し、徐々に活動内容を拡大してきている。まとめ役であるチーフ10人によるチーフ会議において、会員であれば誰でも行えるかたちを常に模索し、活動に喜びを感じる自発的な生き生きとした活動を目指して、何をどのように実施するか、熱心な検討がされていく。

 

 発足当時はポスター、カタログといった印刷物の発送作業、友の会会員の受付など、美術館の手となり足となる活動に重点が置かれていたが、そうした活動をより一層効率的なものにしながら量的な拡大を行いつつ、開館から5年を経過した頃から来館者に対するきめ細かな対応に重点を移行させ、来館者から心の暖かさを感じさせる美術館として好評を得ている。

 

 現在の活動は、来館者を対象とするヴォランティア活動として、

 
  1. 小学生を中心とする団体への解説・案内
  2. 盲人をはじめ身障者への解説・案内・介添
  3. 受付(館内案内、市内案内、問い合わせ、レファレンスなど)
  4. 日曜映画会の実施(16ミリ映写技能検定の有資格による)
  5. ハイヴィジョン・ルーム(兼・図書閲覧室)の運営

 また、美術館・友の会・協力会の事業への協力として、

 
  1. ポスター、カタログなどの発送作業(例えば、ポスターの場合、郵送分約 1,750枚、宅急便約750枚の宛名貼 ・折込、車での市内配布約230カ所)
  2. 資料の整理(新開の切抜・整理、図書・カタログの整理など)
  3. 公開美術講座、ミュージアム・コンサート、創作広場などの実施協力
  4. 館内ポスター掲示板の管理
  5. アンケートの実施、及び集計
  6. ビデオ機器の操作、解説会等のスライド・映画の上映
  7. 無料観覧日など特別な日の監視
  8. ワークシート、館情報「ごあんない」などの印刷
  9. 友の会の受付事務、配布作業など

 その他、教養講座、研修旅行、新年会などを実施して、数多くの活動が日々さりげなく暖かく行われているのである。

 

 美術館で開催される企画展が難しすぎるという言葉が、ときには堂々と、あるときには秘かにささやかれている。企画展も一つのドラマとして演出されたものであり、カタログも展覧会も学芸スタッフの調査研究活動の成果の発表の場である性格がある以上、1点の作品の図像を手がかりに自分なりの主観的な物語を発展させている人たち、あるいは自分では客観的な判断に自身がないが、論理的に把握することに腐心している大多数の人々には難しいと判断されても 妥当な場合も充分に考えることができる。

 

 美術館や博物館は、ある特定の人たちのものではなく、あらゆる人たちに開かれている必要がある。自己の内部に羅針盤を持つ人に積極的に支援することより、目の見えない人をはじめ身体に障害を持つ人たち、個人の意思ではなく団体の意思で来舘された美術に興味をほとんど持たない人たち、そして初めて美術館に足を踏み入れた小学生一団といった来館者も、美術を楽しむ権利を有しているのであり、そうした人たちにこそたっぷりと楽しんでいただくために、いかなる活動を行ったら良いかを検討し、来館者サービスを何よりも優先したかたちで実施していく必要があろう。

 

 目の見えない方々が来館される連絡が事前に入ると、「欅の会」で自主的に何人の解説と介添に必要であるかを判断し、必要人数を動員して当日に各々の分担を打ち合せ、所蔵品が展示された空間を一緒に行動する。作者、題名、制作年など、最低必要な情報を適格に伝え、触っているところが全体のどの部分であるかを確認しながら、相手から出た質問にゆっくりと応えるかたちで解説しながら案内する。

 

 アメリカを中心に鑑賞の発達段階が提示されている。概略は、第1段階が主観的鑑賞の段階で、第2段階が客観的分類を試みる投階、第3段階が論理的分類を行う段階、第4段階は豊富な知識を持つコレクターのステージ、第5段階が美的ジャッジメントのできる館長のレベルということになる。日本でも、第3段階以上の人を対象としたヴォランティアによるギャラリー・トークを実施している美術館がある。こうした活動に対して多少羨ましく思う反面、美術に興味や関心を有しない人、第1段階、第2段階の方々、目の見えない人、耳の聞こえない人を対象に、単なる知識の伝達に終らせず、自己の感動を人に伝えることに重点を置き、どうしたらいいのか、智恵を出し合って活動の方向を模索しながら着実に歩んでいる「欅の会」の活動に強さを感じる。生涯学習ヴォランティアは、誰よりも世話好きであり、より充実した活動を行うために様々なことを自らの意志で進んで学び、しかもヴォランティア活動を行うことに心から喜びを感じることが必要条件といえよう。三重県立美術館ヴォランティア「欅の会」の会員はそうした心情を持ち合わせていると私は思っている。 

 

(もりもとたかし・普及課長)

 

ボランティア欅の会のページ

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