このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

美術館の教育普及担当学芸員の役割

佐藤厚子

 

 昨年の12月初旬、博物館問題研究会の例会において、世田谷美術館の学芸員高橋直裕氏による「美術館普及活動の現在とこれから」という講演で、氏が今まで開発・実践してこられたワークショップの内容とそれらの活動の目的等を知る機会を得た。高橋氏は、周知のとおり1986年の世田谷美術館開館以来体験とプロセスを重視した様々なワークショップを開発し実施して来たが、ワークショップとは“今まで学習方式ともいえる講座の在り方を否定しそれに代わる美術館普及活動の新境地を開く手法”であり、これらの活動の目的はこれまで非日常的な場所として認識されてきた美術館を日常生活の場として市民に利用してもらいたいとする“美術館そのものの普及”であると述べた。又、世田谷美術館における講座等は展覧会担当学芸員が行なっているということであった。この講演を聴きながら、我が国の公立美術館でおそらく最初に設立された普及部において、ワークショップという言葉を用いて“美術作品の普及ではなく、美術館と美術の普及活動”を目的として行なわれてきた宮城県美術館の普及活動と共通の問題を感じた。というのは11月中旬に、宮城県美術館普及部が普及部10周年記念事業「美術館の普及活動を考える」を開催した折り、宮城県美術館の普及部以外の学芸員は一人も参加しなかったということであった。

 

 従来、我が国の博物館(美術館)においては、学芸員は収集、保管、展示、調査・研究ばかりでなく教育普及活動も行なってきたが、その理由は博物館(美術館)の教育普及活動が収集、保存、展示、調査・研究と深く結びついたものであるべきだという考えに基づいているからだと思われる。このように考えているのは我が国だけではない、例えば、アメリカの博物館(美術館)では、周知のようにキューレートリアル部と教育部は独立しているが、1984年アメリカ博物館協会はこの二つの部を廃して一つにすべきだと提案した。その理由はそれぞれが部として独立・分業しているために、本来あるべきキューレーターとエデュケーター相互のコミュニケーションがほとんどなく、教育活動と収集、展示、調査・研究活動等が有機的につながらないという弊害が出ているからであり、館のコレクション等についての研究家であるキューレーターと、館の利用者と彼らの主体的学習を助ける理論と実践の研究家であるエデュケーター相互の協力があってこそ、アメリカの博物館(美術館)の使命である公衆のための教育を可能にするという考えによるものである。さらに、10月下旬に、1991年アジア・太平洋地域文化活動推進者研修セミナー「博物館の教育普及活動」のリソース・パーソンとして来日した、博物館学の権威であり、インド・プリンス・オプ・ウェールズ博物館館長でもあるサダシヴ・ゴラクシュカール氏は、“急激に変貌する社会における博物館の存在意義は、社会的遺産の証拠品を保存し、それを教育を通して次世代に伝えることである。”と指摘した。このように博物館(美術館)における教育活動は“博物館資料(object)を通しての教育活動”が基本であり、他の博物館(美術館)事業と密接につながるものであるということは、世界的にコンセンサスが得られている。

 

 それにもかかわらず、何故我が国の美術館では、孤立した、他の事業と分離して、“美術館そのものの普及”に限定した活動を行なう普及部あるいは普及担当者が生まれたのであろうか?その理由は新設の美術館に開かれたイメージを持たせるために、欧米の美術館からミュージアムショップや洒落たレストラン等と共に、美術館教育についての充分な研究がなされないうちに、普及部あるいは普及担当者を採り入れてしまったためであると考えられる。そして、美術館における教育とは美術教育であると安易に考え、実技のバックグラウンドを持つ者をその担当者に配属したのであろう。そこで、彼らは美術館で従来行なわれていた実技講座や学校の美術の授業で行なわれている創作活動とは異なり、“指導する人、される人の区別なく、全員が対等の立場で協力しあいながらひとつの目的あるいはテーマに向かって活動を展開していく性格”を持つワークショップという指導方法を採り入れ、その学習対象者を成人から子どもにまで拡大した。確かに来館者が参加・体験するワークショップは美術館における主体的学習を促す有効な指導方法の一つであり、それを採り入れ、開発した彼らのワークショップの質は欧米の美術館におけるそれよりも非常に高いものが多い。それはやはり彼ら自身が制作者であるため、創作という観点から作品を捕えることは彼らの最も得意とするところだからであろう。したがってそのことに対する評価は充分に与えられるべきである。しかしながら、欧米の美術館ではワークショップが通常展覧会と分離されて行なわれることは少なく、ほとんどは講座と同様に展覧会に関連づけて行なわれている。

 

 欧米の美術館においては、ワークショップ以外にも来館者に何かを教え込むのではなく、様々な来館者が自分の興味や関心に応じて主体的に学習するのを助けるために、様々なプログラムや指導テクニック、リサーチの方法等が開発されている。例えば、ガイド・ツアーで解説(解釈)者が展示作品を一方的に解説するのではなく、観客に質問などをさせ、観客の年令・興味に応じた解説内容を行なう対話方式の解説法、視覚情報を歪めずかつ観客の年令に応じたワークシートの作成法、学校の教師と協力して子どもの学習を促す方法、美術館の利用者を知るためのリサーチ法等々。我が国でも“美術館そのものの普及沖に限定せず、“美術作品の(教育)普及”を行なう普及部あるいは普及担当者を育成するためには、まず美術館教育の研究を行なうことが急務であると思われる。

 

(さとうあつこ・美術館教育研究者)

 

美術館教育関係記事一覧

ページのトップへ戻る