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館蔵品から

ジョルジュ・ルオー(1871-1958)「キリスト磔刑」

1939年頃/油彩・紙・キャンヴァス/44.5×33.5p

 

 油絵具というは物質が物質であるときにひとの眼にうったえてくる触感を表現するのがもっとも特異な材料のような気がする。ようするにヨーロッパの知性がむかった“ミメーシス”の原理から生まれるべくして生まれたのだと、かんたんにいっていい。そして物質世界のゆたかさはモノトーンをゆるさないのにくらべ、精神のせかいのゆたかさはかならずしも色彩的ではないということがあるとき、この油絵具はそれによって精神性をあらわすことができないわけではないとしても、よくみれば、そこにあらわれてくる精神のかたちは精神を分析する精神とでもいうべき方向をとるのが自然だったから、たとえばルドンのような画家は、油彩、というか表現するちからをもった色彩を自在につかえると信ずることができるまでにながい時間をかけなけれぼならなかった。

 

 ルドンとならんで美術史のうえでもっとも魅力のある黒をつくりだしたルオーはどうだったのだろうか。かれにはルドンのように孤独に曲がりくねった思索をへて油絵の色彩にたどりついたとう苦しさはかんじられない。それどころか、ノンシャランなたくましさでカンヴァスよりも重量がありそうにみえるまで、色のうえに色をかさねてあきることがないのだ。もっともそんなことより、えがかれた絵具という物質が物質であることを感じさせればさせるほど、それとともに精神性がましてゆく光景はルオー以外ではみられない、ということがほんとうはだいじだ。逆にいってもいい。ルオーの絵ではみえない精神の重きが「もの」になっている、と。かれがえがけば黒でさえ高貴な物質の輝きに光りはじめるこのルオーの逆説はきわめて反二十世紀的だ。

 

(東俊郎・学芸員)

 

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