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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.31-40) > ひる・ういんど 第34号 元永定正「赤と黄色と」

館蔵品から

元永定正 1922- 「赤と黄色と」

1963(昭和38)年

混合技法・キャンヴァス・板

 

177.0x275.0㎝

 

 

 画面を大きく占める、何かエネルギー体めく形の輪郭は、遁走し膨張しようとするヴェクトルと、それにブレーキをかけんとするカとの間に成立した接線として走っている。ブレーキは、画面の縁に対する間合いから働く。高速、かつできるだけ多くの距離をかせごうとする走行は、縁に沿むいつつ、ぶつかってしまわない位置でカーヴを切らねばならない。

 

 ふたつのカの交渉の結果としでの線は、ニ次元の平面のよを気ままに動く一次元にととまらず、右方で巨大な弧として閉じることになる、自身二次元の形態の外縁である。上で輪郭が残す山や谷、そのふくらみ加減と、下でのそれらとが、平行ではなく大まかにずれているため、そこに生じる遅延と抵抗が、振動を波及させていくだろう。 ところでこの脈動する形態は、決して平面の上にのているわけではない。画面の緑に対する間合いによって軌跡が定まる輪郭は、まさに、画面という平面そのものに一致・内在しているのだ。それゆえ、形腰の内と外はとぎれてしまっているのではなく、仮に二手に離れただけなのだろう。外側の、白地を透過する青や黄の薄塗りによる波動は、事実同時に、形態の動きそのものと画面の縁とによっで牽引されている。

 

 とすれば、形態も実は、独立しているのではなく、画面という平面全体をみたす媒体の揺動の一相にほかならない。黄の内部の朱は、溢れ出した部分が示すように、外側と通底している。黄の輪郭をとる朱も、単純に形態の外縁を区切るのではなく、次元の入れ子状の構造に組みこまれる。そしてこの時、全体として生成と崩壊が連鎖する画面は、厚みのない幾何学的な平面ではもはやあるまい。平面に即するかぎりでの重層をそなえた空間、だからこそ、小石に相転移したりもする。

 

(石崎勝基・学芸員)

 

元永定正展より

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