1900-05年頃 パステル、紙72.0x39.0㎝
紫がかった青は、人物の赤みの混じる灰色の上に擦りつけられてい・驍セけで、時にかすれ時にはみだしている。パステルの粉目をつぶしたような質感で、形象に頓着しない塗りは、色材の物質としての相を強調し、ために色の強さを高めることになる。形象に従わないから色が強まるというよりは、逆に、色を第一としたために、形象は色に溶かされゆくのだ。棒きれめく脚にそれは著しい。 黄も遠近の顧慮なく均一に塗られている。床を記さないので、空間は天地の区分を失なって形象を浮遊させる。絵具の物質性の強調がかえって、画面の内では非日常的な光として一切をみたす。 黒の線は、形態の輪郭をなぞることから解放されて鞭打つごとく動き、青の下になったり上になったりしている。形に基づきつつ縛られないことで、形を失ない物質としての稠密を感じさせる黄と青とを結ぶくさびの役割を果たすことになる。 絵を構成する因子がばらばらになるぎりぎりのところで噛み合わされているがゆえに、幻影固有の非実在にして印象の強さが生まれているのである。 (石崎勝基・学芸員) |