館蔵品から
ミロと言えばユーモアを帯びた記号状の形象を散らした画風がすぐ思い起こされるが、1920年代なかば以来のその様式も全く変化を蒙らなかったわけではない。本作品では、画面左下を大きく〈女〉が占めその周囲を〈鳥〉たちが舞っているのだが、それらを描き出す線は太く、画面の端から端までバランスを崩すような大きな空隙なく覆っており、そのため図と地の区別が廃される。左下の縁に接した黒と赤がそうした平面性を完結させている。勢いを持って書かれた幾つもの黒い弧は、二次元の空間に動きを与える。白と灰の冷たい地と黒の対比は、輪郭の無い、絵具をぶつけたかのような赤、青、緑、黄等の調子を甲高いものにしている。 細い線の果たす役割りが大きく、空間が無眼定なかつての作風をミロの古典様式と、この作品が制作された1960年代以降の、集中性の高い作風をミロにおけるバロックと呼ぶことができよう。 (石崎勝基 学芸員) |
『女と鳥』 1968年油彩・麻布 100.0x68.0cm
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