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ルーベンス展トピック

リュビニズム(1) 婚礼の図像

荒屋鋪 透

 

 ニューヨーク、メトロポリタン美術館に、エドゥアール・マネの『サン=トゥアンの魚釣り』と題した絵がある。サン=トゥアンはマネ家の別荘かあったジュンヌヴィリエーパリ北方アルジャントゥイユに近い、セーヌ河沿いの避暑地─附近の小島である。画面には、小舟で釣りを楽しむ二人の人物の他に、犬を伴い17世紀の装束を纏ったマネ自身と、マネの将来の妻シュザンヌ・レーンホフが描かれている。マネとシュザンヌの目は、対岸で釣りをする─残る一人の登場人物である─少年に注がれている。少年の名はレオン・コエラといい、世間にはシュザンヌの弟と通していたマネの息子である。シュザンヌはオランダ人のピアニストであったが、1850年代からマネ家のピアノ教師となった。彼女がマネと恋愛関係にあった頃、1852年1月29日にレオンは生まれている。しかし頑迷な高等官であったマネの父親の反対から、晴れて二人が結婚したのは1863年のことである。

 

 マネはこの絵を制作するにあたり、ルーヴル美術館にあるアニーバレ・カルラッチの狩猟や魚釣りの図を参照したと云われているが、近年、美術史家のシオドア・レフによって、本作品の原型が1861年に出版されたシャルル・ブランの14巻から成る美術通史Histoire des Peintres de Toutes les Ecoles, Paris, 1861-1876の中の挿図、ルーベンス作に基づくスヘルテ・ア・ボルスヴェルトの銅版画であることが解明されている。レフによると、本作品はボルスヴェルト刻による『城の庭』─今回ルーベンス展に出品されているもの─と『虹の見える風景』から再構成されているという。ルーベンスの『城の庭』が、画家とその妻エレーヌ・フールマンとの仲睦まじい情景を主題に採ったものであることから、マネは自らをルーベンスに見立てシュザンヌとの婚礼を暗示している。背景の虻は二人の間に結ばれた契りを、また犬は二人の貞節を、背景の教会は婚姻をそれぞれ象徴している。フランス語のpecher(釣りをする)という言葉が、pecher(原罪を犯す)を仄めかし、マネは自ら我が息子レオンを指差しているのである。

 

(あらやしき・とおる 学芸員)

エドゥアール・マネ 「サン=トゥアンの魚釣り」

エドゥアール・マネ

「サン=トゥアンの魚釣り」

1861-63年

ルーベンス作に基づく 「虹の見える風景」

ルーベンス作に基づく

「虹の見える風景」

銅版画

サン=トゥアンの魚釣り(部分)

サン=トゥアンの魚釣り(部分)

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