明治26年(1893)10月、浅井は旧佐倉藩士立見直の妹安子と結賭した。同月に制作されたこの《小丹波村》は、小品ながら自信にみちた筆致のできばえを見せている。工部美術学校の同輩らと明治美術会を結成後、自らの発表の場と画風を確立した37歳の作である。
中景に樹木を配し、点景人物と軒下の小道具でアクセントをつはる手法は師フォンタネージから学んだものだが、茅葺き屋根が屈折しながら対角線を降りた軒の水平線によって二分された画面に、田舎道がゆるやかな円孤をえがく安定した構図と明るい色彩によって、画家の資質と感性を反映した農村風景となっている。武蔵国小丹波村は奥多摩から甲州への旅程でしばしばスケッチされており、他にも何点かの水彩とパステルが残されている。
(荒屋鋪透・学芸員)
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1893年|油彩・キャンバス|26.8×38.9cm
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