ミケル・ナバッロ(エントランス・ホール)
美術館の入口をくぐってすぐ、エントランス・ホールの床にひろがっているのは、ミケル・ナバッロ Miquel Navarro(1945年、バレンシア州ミスラータ生まれ)の『敷地 Ⅰ』です。
ナバッロは、スペインで1980年代以降展開したさまざまな彫刻による表現の先駆者として位置づけられています。彼の代表作は<都市>の連作で、この『敷地 Ⅰ』もその一つに数えることができるでしょう。ここでもそうですが、ナバッロの規模の大きい作品は、塔だか煙突のように、垂直にのびあがるパーツと、小さな、しかし数多く水平にちらばるパーツとの関係からなりたっています(作品によっては、垂直だけの場合もあれば水平だけの場合もありますが)。
<都市>という連作のタイトルとの連想をはたらかせれば、垂直のパーツは塔だか高層建築、水平のパーツは一般の家屋、あるいは匿名の群衆のようだと読みとくのはたやすいことでしょう。ただし、作品は決して何かの模型ではないとは、作者自身が強調するところです。ここでは尺度はもはや問題とはされておらず、個々のパーツも特定の意味にしばられてはいません。さまざまな意味と意味との間、垂直のパーツと水平のパーツの間、水平のパーツどうしの間に開く空間と、そこに宿った何らかのエネルギーこそが問題なのでしょう。
さて、この作品の主要部分から少し離れて、奥の階段の方の壁を見ると、いくつかのパーツがたてかけられています。これは作品を組みたてるために用いたパーツのあまったものだということです。つまり、これらを加えた構成を考えることもできれば、もっと減らすこともできたかもしれない。その点見る人それぞれが想像を働かせてみて、それぞれの都市だか宇宙を作りあげてみてはどうでしょう。
シンポジウムより、1997.10.26
ミケル・ナバッロ
都市
「私にとってもっとも意味のある仕事は、彫刻的な風景と名づけることができるでしょう。そのテーマは都市です。1972年、これは私が最初に<都市>を作った年で、それ以来現在まで、他のタイプの作品はおくとして、さまざまな都市を、ことなる素材で制作してきました。最初は粘土で、近作では金属を用いています。今回展示する作品は、アルミニウムによるものです。
都市とは、私にとって、私にとり憑いた観念をまとめあげるための口実として、諸文化の綜合として、権力、秩序そして渾沌の象徴としてあるのです」。
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