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向井良吉 (むかいりょうきち/1918- )
レクイエム
1987年 白銅
押しつぶされ、破壊されたような金属の塊である。文明の末路を物語る彫刻といってよいかもしれない。一九四二年二十四歳のとき、向井は福井県鯖江の陸軍歩兵連隊に入営し、やがて南太平洋の島ラバウルに配属された。敗戦後、ラバウルで収容生活を余儀なくされ、マラリアと栄養失調によって、死を覚悟したという。過酷な戦争体験は、以後の向井の底流となって、独自の作品として結晶する。廃墟あるいは崩壊のイメージが、強烈にわれわれの胸を打つ。しかも、その崩れゆく形態の中に、シャープで優雅な叙情性が漂っているのを見逃してはならない。向井の彫刻は美しくてとげのある薔薇に似る。
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