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美術館 > 刊行物 > その他 > その他(報告書など) > 3. 20世紀後半 1. 内戦後 20世紀後半のスペイン美術とバレンシアの作家たちをめぐる覚書 石崎勝基


III. 20世紀後半

1. 内戦後

スペイン内戦とそれに続くフランコ政権の樹立がもたらした複雑な社会状況を背景にしつつも、20世紀後半においては、アントニ・タピエス(1923- )(『100の絵画』no.31-33)、アントニオ・サウラ(1930- )(『100の絵画』no.51-53)らに代表される1950年代以降の、いわゆるアンフォルメルが国際的な知名度を得た。ここでも、しばしば色彩を欠き、絵具や支持体の物質性を強調した激しい作風が、先にのべたようなスペイン美術に対する一般的なイメージを裏づけることになる。

彼らを20世紀後半のスペイン美術の代表と見なすことに異論はあるまい。しかし当然ながら、彼ら以外にもスペインの美術界を担ってきたさまざまな活動が存在した。フランコ政権は、共産主義圏における社会主義レアリスムのような、公式様式を確立することには成功しなかったという(1)。そのため、スペイン国内では制約を課されつつも、ある程度欧米でのいわゆる主流に平行する動きを認めることができる。それらはたとえば、やはり欧米から見れば文化的辺境であろう、日本の美術の動きとの比較を促さずにはいない。たとえばパンチョ・コシーオ(1894-1970)(fig.8);1927年頃からの作品にブラックの影響をうかがわせつつ、グレーないし褐色のモノトーンで、マティエールに比重をおいて風景画や静物画を主に制作した彼の作品を、鳥海青児や須田國太郎のそれと比較することはできないだろうか?


1936年から39年まで続いた内戦の終結後の美術の状況は、公式様式が模索される一方で、それに対する抵抗という意図を含んだ、いわゆるアヴァンギャルドの復興と展開という相を呈することになる。このためか戦後のスペイン美術にはつねに、何らかの社会性の意識が裏打ちされることになるだろう。


こうした諸活動の概要については、先にあげたマドリードのレイナ・ソフィア国立美術館の常設展示およびそのガイドブックによって、アンフォルメルにいたるその大筋をたどることができることのみ記しておく。とまれ、サラゴサで結成されたグルーポ・ポルティコ(1947-50)(2)(fig.9)やバルセロナのダウ・アル・セット(1948-53)(3)などのグループ活動が、戦後スペインの美術界で最初にまとまった動きをしめした。出発・_に綜合的キュビスムや幾何学的抽象をおきながら、しばしば暗い色調にいろどられ、時にプレ・アンフォルメルとも見なせる彼らの作品は、戦後日本のルポルタージュ絵画や<密室の絵画>と比較することができる。とはいえ、たとえばダウ・アル・セットのメンバーの内、詩人でもあったジョアン・ブロッサ(1919- )(fig.10)は視覚芸術の領域では、日常品を用いたアイロニカルなコラージュないしアッサンブラージュを制作しており、やはりひとくくりにするこことができるものではない。


同様に戦後バレンシアの美術活動の出発点を築いたのは、グルーポ・パルパリョーであろう(4)(fig.11-12)。1956年から61年まで続いたこのグループは、グルーポ・ポルティコやダウ・アル・セットなどと相似た位置を占めている。ここに加わった顔ぶれはさまざまで、やはり一つの傾向にまとめることはできない。とりわけ初期には主観化されたレアリスムからキュビスムなど、戦後アヴァンギャルドの萌芽状態を忍ばせる。後期になると、モンハレース(1932- )のようにアンフォルメルに近づくものがいる一方、後にふれる、スペインの幾何学的抽象の展開に重要な位置を占めるセンペレ(1923-1985)(『100の絵画』no.37-41)とアルファロ(1929- )の姿が目立ってくる。


1. F.C.Serraller,‘España(1939-1985): medio siglo de vanguardia’, Del futuro al pasado. Vanguardia y tradición en el arte español contemporáneo, ibid, p.85-86.



fig.8 コシーオ『磁器のボデゴーン』1945



2. cf. Catalogue of the exposition Grupo Pórtico 1947-1952, Electa, 1993.



fig.9 サンティアゴ・ラグーナス(1912- )『とがった形』1949



3. cf. Lourdes Cirlot, El grupo 《Dau al Set》, Catedra, 1986.



fig.10 ブロッサ『B.M-6』1988



4. cf. Catalogue of the exposition Grupo Parpalló 1956-1961, Sala Parpalló, 1991.



fig.11 イシドーロ・バラゲール(1931- )『59年』1959



fig.12 モンハレース『真理の書』1961

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