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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 1993 > ミニ用語解説:美術史の基礎概念 土田真紀 友の会だよりno.34, 1993.11.25

ミニ用語解説:美術史の基礎概念

美術そのものの歴史に比べれば、美術の歴史を扱う学問の謄史ははるかに浅く、基礎が築かれたのは18世紀にすぎない。この短い歴史のなかで、「美術史学」を一つの学問として確立しようと、様々な方法が模索され、ドヴォルシャークの「精神史としての美術史」やパノフスキーの「図像解釈学」などが生み出されたが、なかで最も美術史らしい方法を呈示したのは、ドイツの美術史家ハインリヒ・ヴェルフリン(1864-1945)であったといえるだろう。彼は美術史を、絵画、彫刻など、視覚芸術を通して我々が表現する際に固有の形式の展開として捉えた。

1915年に刊行した『美術史の基礎概念』という代表的な著書のなかで、ヴェルフリンは、ルネサンス美術とバロック美術を対比しつつ、それぞれの美術の形式には以下のようなそれぞれ対立する5つの基礎概念が見て取れるとした。

1 線的-絵画的 (左頁の「エルミタージュ美術館展への手引き」を参照)
2 平面-深奥 前景と後景を同じ平面上に並立させて配するか、それとも前後関係を強調して深い奥行を実現するか
3 閉じられた形式-開かれた形式 画面の枠が課す法則にしたがい、そのなかで完結しているか、それとも法則から自由であろうとし、枠からはみ出そうとするか
4 多数性-統一性 各部分が独立を保ったまま集合しているか、それとも部分が全体のうちに不可分に結合しているか
5 明瞭性-不明瞭性 個々の形態が明瞭に表現されているか、それとも輪郭が不明瞭で、全体のなかに融け込むようであるか

ヴェルフリンは、ルネサンスとバロックをこの5つの対立する概念で規定するだけでなく、ルネサンスからバロックヘという流れを形式の必然的な展開と見なし、歴史のなかで繰り返されると考えた。こうした彼の見方は、美術を美術以外の何かと関連づけるのではなく、美術を美術たらしめている最も純粋な側面に注目する美術史学の立場を代表している。

実のところ、上のような箇条書きによってヴェルフリンを紹介したのでは、彼の方法をただ独断的ですでに古びたものに思わせるだけではないかと危惧を抱いている。確かに美術の純粋な側面のみを強調した彼の方法はその後様々な批判を受けたが、今日、彼の著作の真価は、結論としての5つの基礎概念よりも、それを導き出す個々の作品に即した鮮やかな分析にこそ見出されるように思われる。

(学芸員・土田真紀)

友の会だよりno.34, 1993.11.25

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