このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

サイト内検索

美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 1996 > ミニ用語解説:修復 田中善明 友の会だよりno.42, 1996.7.20

ミニ用語解説:修復

この世の物体すべては、かならず変質する運命にあります。そして、長い時間をかけて変質しながら地球上で循環しています。例えば、石にコケが生え、その石がコケなどに分解されて小石となり、それらが堆積してまた巨大な石に生まれ変わる。糞尿が虫やバクテリアにより分解され、肥よくな土壌をつくり、またその土壌によって新しい植物が育つ。わたしたちも、何十年かのちには身体の活動が停止し、肉体を構成する物質は別の生物の一部となったり、骨は土壌に溶けていったりします。

こうした循環する運命を素直に受けとめるとしても、せめて子孫に何か生きた証を遺したいと考えるのが人間の本能です。子孫に財産を残したいと思うのもそのひとつです。思想や技術が物質としてあらわれた文化財も、かたちあるものですからいずれは無くなる運命ですが、それが自分たちに感動をあたえるものであれば、その感動を子孫にもわかってほしいと感じます。

そういった文化財を「修復する」ということは、それを長持ちさせ、はじめにあった状態に戻そうとすることなのですが、実際にどういう作業をするかといえば、剥がれかけている物を接着剤でくっつけたり、熱を加えて変形した部分を矯正したり、水や薬品で汚れたところをきれいにしたりします。つまり、その物体になにがしかの力を加えていることになります。ということは、見かけ上もとの状態に戻っても、実はカを加えることによって別の物体に変わっていくことになります。

これまでの修復家のなかには、作品の見栄えをよくするために、自分の解釈をその作品に加えてしまったり、必要以上に洗浄したりすることがありました。しかし、最近では修復家のほとんどに、「修復はある一面で文化財を変質させる」という認識がいきわたり、できるだけ修理を施さない、どうしても必要な場合は作品のオリジナリティを尊重した最小限の処置を施すことで見解が一致しています。美術館で展示されている作品も、そうした見解にたち、多少作品の表面が汚れていてもそれをふき取ることが作品にとってかなりの危険がともなう場合は無理をしないようにしています。

(学芸員・田中善明)

友の会だよりno.42, 1996.7.20

合体版インデックス 穴だらけの用語解説集
ページID:000054566