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ミニ用語解説絵画と文学・音楽−ルドンの場合−

ブルワー・リットンの小説に『幽霊屋敷』という短編がある。翻訳が文庫で読めるので、深夜一人で読書することの好きな人には、ぜひオススメの一編である。(『怪奇小説傑作集1.』創元推理文庫)。1896年、この英国の小説がルネ・フィリポンの翻訳によってフランスに紹介された時、その挿絵を担当したのがルドンであった。表紙の扉絵を除いて六点の連作版画である。ルドンは象徴主義と呼ばれる画家の中でも、その前衛性によって後のシュルレアリスムの先駆けと評価されているが、彼はリットンの濃密な心理描写を、絵画として巧みに再現することに成功している。少し慎重な鑑賞者ならば、優しく我々の硬直しやすい理性を解放し、感性を拡大してくれる幻想的なルドンの絵画の中に、もうひとつの厳しく恐ろしい表情、恰もクレバスの様に口を開けた暗い深淵を覗き込むことが出来るかもしれない。自らを音楽的な画家と称していた彼のメタファ−(隠喩)を正確に読み解くには、その芸術的環境を今一度渉猟しなければならないだろう。例えばルドンには仏陀を主題に採った作品が何点かあるが、その扱い方は仏教の輪廻と楽劇のライト・モティーフとの原理に共通性を見い出していたワーグナーに近いものであるし、フロベールの小説『聖アントワーヌの誘惑』に施したルドンの挿絵版画は、ワイルドが同書に付した奇抜な注釈に類似している。そして室内楽の演奏を楽しむため、しばしば訪れた友人の作曲家ショーソンの自宅で見ることの出来た、十数点のドラクロワの絵画から啓発された色彩といったものがルドン芸術の源泉なのである。

 

ルドンの熱烈な支持者であった、詩人のヴェルハーレンはこう告白している。「……ばかげたこと、無駄なこと、出来っこないこと、狂ってること、法外なこと、強烈なことが、私は好きなのです。なぜなら、こういうものは私を挑発しますから。…‥」(ルドン宛書簡)

ルドン『幽霊屋敷』から
ルドン『幽霊屋敷』から

(荒屋鋪 透・学芸員〉

友の会だよりno14(1987.3.10)

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