このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

サイト内検索

美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 1989 > ミニ用語解説:アール・ヌーヴォー 土田真紀 友の会だよりno.21, 1989.7.20

ミニ用語解説:アール・ヌーヴォー

フランス語で「新しい芸術」を意味する「アール・ヌーヴォー Art Nouveau」。この言葉が、ある特定の美術様式、あるいは芸術運動を指し示すようになったのは、19世紀末のことである。フランスにおける日本趣味の普及に力を入れた画商ジークフリート・ビング(誤って一般にサミュエル・ビングと呼ばれている)が、1895年パリに開いた店の名前が「ラール・ヌーヴォー L'ArtNouveau」であったことがその直接の源となっている。ビングは、幾人かの工芸家やデザイナーに依頼して、店内に当時の最も新しい工芸品や室内装飾を展示した。それらに共通して見られた波打つように湾曲するS字曲線が、「アール・ヌーヴォー様式」と呼ばれ、フランスに留まらず、やがてヨーロッパ全域に広がる国際性をもつことになった。

19世紀の末に、過去の模倣と訣別して、新しい装飾の様式を求めた工芸家たちは、その創造の源を自然の形態の中に見出した。なかでも、植物の茎や根がはらむ生命力は、彼らを魅了し、その力強さを典型的に表明したのがS字曲線である。アール・ヌーヴォーという言葉は、主として工芸品、ポスターなどの応用美術や建築装飾に対して用いられるが、ゴーギャンら同時代の絵画にも、そのS字曲線はしばしば登場している。

しかし、曲線を特徴とする作品のみがアール・ヌーヴォーと呼ばれるわけではない。「新しい芸術」という本来の意味が示すように、この言葉は、工芸・建築の分野において、その時代にふさわしい斬新な芸術を追求した運動全休を指し示す。そのために、1900年頃からスコットランドやウイーンに出現した直線的な傾向の作品をも含めて考えられることが多い。

アール・ヌーヴォーの代表的な芸術家としては、ビングの店に関わったベルギーのヴィクトル・オルタ、アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド、フランスのエミール・ガレらがいる。また、当館がポスター作品を所蔵しているアルフォンス・ミュシャもその一人である。さらに、今年の1月に展覧会を開催したヤン・トーロップの「デルフト・サラダ油のためのポスター」は、アール・ヌーヴォーの代表作である。

アール・ヌーヴォーと同じ内容を意味するドイツ語としては、「ユーゲントシュティール(若い芸術)」が一般に用いられている。またS字型の曲線から連想して、この時代には「うなぎ様式」といったからかい半分の呼称も使われていたという。

(土田 真紀・学芸員)

友の会だよりno.21, 1989.7.20

合体版インデックス 穴だらけの用語解説集
ページID:000054539