ブレイク《ヨブ記》 土田真紀
ウィリアム・ブレイク(1757-1827)
《ヨブ記》
1825年
エングレーヴィング・紙
19.1x15.0cm
旧約聖書中『ヨブ記』は、神の恩?を受け、家族と共に幸福に暮らしていた「正しき人」ヨブに、ある日突然次々と試練が襲い、一旦は絶望の淵に立つが、やがて真の信仰を得て幸福を取り戻すというよく知られた物語である。ブレイクは、水彩画で2度、この物語の絵画化を試みた後、22の場面からなる銅版画集を制作した。
本作品は第14図で、絶望するヨブにつむじ風の中から神が答え、天地創造について語りかける場面である。画面下方には「かの時には明の星は相共に歌い、神の子たちはみな喜び呼ばわった」という、ちょうどこの場面に相当する『ヨブ記』第38章7節が引用されている。
中央画面は3層に分かれており、上段に「明けの星」である天使たち、中段に太陽の神と月の神を伴った神、下段に呼ぶと妻、3人の友人が描かれている。この画面の周囲を装飾的なモティーフと文字から成る枠が取り巻いているが、そこには、天地創造の場面やこれと関連する『創世記』からの引用文などがみられる。
ブレイクは「幻視(vision)の芸術家」といわれる。彼の特異な想像力は、『ヨブ記』という魅力的なテキストを得て、彼の眼前に次々と鮮明なイメージを浮かび上がらせたにちがいない。そうした幻想的イメージが緻密な線で表現された中央の画面、同様に幻想的な枠どりのモティーフ、引用されたテキストの文字が一体となって、テキストの単なる図解に留まらない、ブレイクの『ヨブ記』がつくり出されている。画家であると同時に詩人でもあるブレイクであればこそ成し得た力業の賜である。
(土田真紀・学芸員)
友の会だよりno.37 1994.11.25
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