久方ぶりにイタリア・ベニスに出かけた。現代美術の祭典べニス・ビエンナーレを取材するためだ。このビエンナーレ、最先端を行く美術作品が鳥瞰できる場所。世界各地から、美術関係者、評論家、画商、文化大臣など様々な人たちが内覧会に来ていた。 五十三回目を迎える今年のビエンナーレには過去最多の77ヶ国が参加。出品作家も七百名と、凄い人数だった。金融危機もどこ吹く風と云った賑わいで、さすが歴史と伝統を誇るビエンナーレと改めてその存在の大きさを実感した。 今回のビエンナーレでは、メイン会場のジャルディー二(公園)を中心に街の到る所で展覧会が開催されていた。展覧会の数が多く、三日間のベニス滞在で廻れたのは全体の半分程度。早足で街中を歩き回った記憶が蘇る。 ビエンナーレの今回の全体テーマは“世界を構築する”。参加作家の多くはこのテーマに沿って出品していた。“近代文明の行き詰まり”を表現したものや、住宅ローンの破綻を彷彿とさせる作品、或は“エコ”の重要性を訴えるものなど多様だった。面白かったのは、イラン人作家による作品で、“この世にはアラー以外に神なし”との主張が全面に出ていた。また、アラブ首長国連合の展示は首都の再開発プランが主題。潤ったオイルダラー(?)で首都の再開発を試みると云った趣の展示だ。“世界の行き詰まり”を様々な切り口から表現する欧米の作品とは対称的だった。 内覧会の時期にあわせてベニスに美術館“プンタ・デラ・ドガーナ”がオープンし、こちらも話題となった。世界屈指の現代美術コレクター、ピノ氏のコレクションを公開する美術館だ。残念ながら時間の制約で訪問できなかったが、日本関係では村上隆や杉本博司といった作家の作品も公開されていたという。この美術館、歴史的建造物をリフォームしたもので、外観をそのまま残し、改築したのは内部のみ。手掛けたのは建築家の安藤忠雄だ。評判も上々で、今後ベニスの新名所になるのではないだろうか。 ベニス・ビエンナーレの魅力はなんと云っても二年に一度開催される度に、美術の新しい動向を見せてくれることだ。毎回通っていないと世界の様子が判らなくなるという不安がよぎる。繰り返し訪れたくなるのも、そうした理由からであろう。ベニスの風景も美しいが、ビエンナーレも負けず劣らず魅力に富み刺激的だ。 |
|
友の会だより、no.81、2009年7月31日発行