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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 2006 > エドゥアルド・チリーダ展 石崎勝基 友の会だよりno.71 2006.3

[4月開催の企画展]
2006年4月11日(火)~5月21日(日)

エドゥアルド・チリーダ展

石崎勝基〈三重県立美術館学芸員〉

本誌58号(2001.11.30)に「ヨーロッパ瞥見」と題して毛利学芸員が、スペイン・バスク地方はサン・セバスティアン近郊にあるチリーダ=レク美術館の訪問記を綴っていたのを、憶えていらっしゃるでしょうか。そこではチリーダの展覧会開催を検討しているのだが、解決しなければならない問題があることも記されていました。その後チリーダ本人は没しましたが、紆余曲折を経てこの春ようやく、チリーダ展が開催の運びにいたります。

スペインの20世紀美術は、複雑な政治的状況にもかかわらず多彩な展開をしめしてきました。その一端は当館でも、『100の絵画・スペイン20世紀の美術』展(1991)や『移動-バレンシアの七人』展(1997)、またわずかながら、これらの展覧会等を機に収蔵された作品のコレクション展示などによって紹介してきました。エドゥアルド・チリーダ(1924-2002)も銅版画2点がすでに収蔵されていますが、彼は実は、20世紀後半のスペインの彫刻を代表する作家なのです。ちょうど絵画の分野でタピエスが占める位置に平行するといってよいでしょうか。他方スペインからは、ジュリオ・ゴンザレスやピカソが20世紀前半、鉄の使用や、量塊的ではない線的な構成などによって、その後の現代彫刻の展開に大きな影響を及ぼしていました。チリーダはそうした先達の成果を受け継ぎ、さらに発展させたのです。当館蔵のソト、ナバッロ、カルボ、マルコ、プレンサ、ナバローンらの作品はさらに、チリーダ以降のスペイン彫刻の諸傾向の例となります。

さてチリーダが欧米で広く知られているのは、一つに、さまざまな屋外空間に設置された彫刻によってです。毛利の先の原稿でもそうした例が紹介されていますが、そこで毛利が記したように、屋外作品はもとより規模の大きな彫刻は、物理的な制約で今回も展示することはできません。しかし規模の小さな作品においてもチリーダの特質はよくうかがえますし、また彼は、鉄やコンクリートだけでなく、さまざまな技法にとり組んできました。今回の展覧会は、金属の彫刻(公共彫刻のための雛形を含む)に加えて、テラコッタ、紙によるレリーフ、そして素描や版画によって、チリーダの多彩さと一貫性を同時にしめそうというものです。ここではそのさわりだけ紹介しましょう。

鉄やスティールなどの彫刻は、いかにもチリーダらしい形態をしめしています。垂直に立ちあがる場合も水平にひろがる場合もありますが、いずれにおいても、素材の質感を強調しつつ、しかしそれがかたまりとして屹立するという以上に、周囲の空間や内側に空隙としてとりこまれた空間を同等の比重で扱い、対話するという特質をそこに見出すことができるでしょう。

《土》と称されるテラコッタの作品は、金属の彫刻に比べればかたまり然としています。しかしそこには必ず溝や孔が刻みこまれ、焼成による膨張がもたらした丸み、そして質感と相まって、空隙のない物体というより、空間自体を内に宿した物質の状態を呈示するのです。

《重力》と題された一連の作品は、通常の意味での素描でもなければ、コラージュのように紙片を貼りあわせたものでもありません。ここでの紙片は、糸紐で吊りさげられているだけです。それゆえ各紙片はタイトルにある重力の作用に従ってぶらさがり、互いに作用しあうわけで、これは紙による浮彫彫刻にほかなりますまい。

これ以外に3点の素描と32点の版画が展示されます。いずれにせよチリーダの作品は、図版では決して汲みつくせない肌触りと空間をしめしてくれます。ぜひ実物を前にその点をご確認いただければと思います。

《限界にてⅢ》 1998年 スティール
《土 M-26》 1996年 テラコッタ
《重力》 1991年 インク・紙、糸、切込

友の会だよりno.71 2006.3

作家別記事一覧:チリーダ
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