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「20世紀美術にみる人間展」

毛利伊知郎〈三重県立美術館学芸員〉

12月12日まで開催されている「20世紀美術にみる人間展」は、これまでにない方式で組織された展覧会です。ポスターなどに「愛知・岐阜・三重三県立美術館協同企画」と銘打たれているように、この展覧会は三重の所蔵作品に加えて愛知と岐阜の両県立美術館も所蔵作品を提供し、会場館である三重県立美術館によって企画されました。こうした展覧会が既に他の美術館で行われたことがあるか、関係者がかなり調べましたが、結局同じものは見つけることができませんでした。

複数の美術館が連携した展覧会といいますと、学芸員が混成チームを組み、共同研究を通じて展覧会を組織し、複数の会場を巡回させることは珍しくありません。また、二つの美術館が互いのコレクションを同時期に交換して開催する展覧会(交換展)も幾度か開催されています。

そうした展覧会と今回の展覧会とでは、出品作品が主催者である三美術館の所蔵作品で構成されていること、しかも三美術館が地理的に比較的近い関係にあること、同時に展示内容が企画性(今回は人間を主題にした20世紀美術がテーマ)を持っていることが大きな違いといえるでしょう。

考えてみれば、これまでこの種の展覧会がなかったことの方がむしろ不思議であるかもしれません。全国各地に数多くの美術館が活動している今日でも、工夫する余地が残されているということもできるでしょう。

とはいえ、このような形の展覧会が日本全国どこでも可能かというと、かならずしもそうではないと思われます。交通の便が良く、各美術館が所在する都市間が30分から1時間程度の時間距離にあり、情報や人々の往来、作品輸送が容易であること、各美術館のコレクションの規模と内容に似ている部分があること、同時に各館の独自性が確立されていること、各美術館学芸スタッフ間に平素から交流があること、等々が必要条件ではなかろうかと思います。

そういう意味で、この展覧会は名古屋、岐阜、津という三都市に立地する三美術館だからこそ可能になったと言えるかもしれません。三館という数も微妙なところで、これが四館、五館になると状況が異なり、難しい問題も予想されます。

ところで、この展覧会の大きな特徴は出品作品が三美術館のコレクションであったことです。このことと関連して、会期中に「三重の美術館にこのような作品があったのですか」というお尋ねを何度か受けました。そして、「その作品は、これまでも常設展示室で何度か展示しています」とお答えすると、驚きの表情を示す方がありました。

また、愛知県美術館のコレクションを代表するクリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》やピカソの《青い肩かけの女》 は、私たちにとっても親しい作品です。しかし、今回の展覧会場でこれらの作品を前にして、どうも愛知県美術館で見た時とどこか違うと感じた方も少なくないでしょう。

一昨年秋からから昨年秋まで三重県立美術館が休館していたとき、三重の重要な作品が愛知県美術館に保管されていましたが、その間同館の常設展示室に三重の所蔵作品が展示されたことがありました。

その際に私も、見慣れた三重のコレクションが全くちがう表情をしていることに何度か驚かされた経験があります。

こうしたことは、同じ作品であっても隣り合う作品によって、あるいは展示構成、展示空間、照明法によって異なる表情を見せる場合があるということを物語っています。

また、私たちが美術作品を鑑賞する場合を考えますと、全く同じ条件下で同じ作品に接するケースは非常に稀であるということがあります。

極端な例ですが、ルーブル美術館のモナリザやミロのビーナスのように、常に同じ場所に同じ方法で展示されている作品に接する場合を想定しても、観覧者の状況、あるいは鑑賞者個人の精神状況が以前と同じということはあり得ません。

まして、わが国の多くの美術館のように常設展示の構成や展示法が頻繁に変化する場合、同じ作品が異なる印象を与えることは珍しくありません。

このことは、美術鑑賞という行為について重要なことを示唆しているともいえるでしょう。つまり、美術作品は一度見たからといって、それで終わりにならないということです。何度も同じ美術作品に接することを通じて、その作品の魅力を発見していくこと、それは同時に新しい自分自身を見出していくことに他なりません。

優れた美術作品は、見るたびに新しい発見と感動を私たちに与え、私たちを成長させてくれます。そして、いつでも誰もが、優れた美術作品と何度でも接することができる場が美術館のコレクション展示です。

わが国では、美術館というと華やかな企画展に眼が向けられる傾向があります。しかし、今回の展覧会を通じて、私たち自身の本当の文化を創造していく上でも、美術館コレクションがより注目されるように今後も努力を続ける必要があると痛感した次第です。

友の会だよりno.67, 2004.11.30

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