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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 2004 > 「ステキな視界・新たな世界展」について 田中善明友の会だよりno.66, 2004.7.31

〔7月開催の企画展〕
7月10日〈土〉 ~8月29日(日)

「ステキな視界・新たな世界展」について

田中善明〈三重県立美術館学芸員〉

ステキな視界・新たな世界展」について芸術作品の使命は、その「オリジナリティ」にあるといえます。わたしたち鑑賞者を感動させる作品、つよく印象づける作品には、他のひととはちがった独自の表現が必ず備わっています。そうした独自の表現へといたるまでには芸術家たちの並々ならぬ努力が必要にちがいありませんが、その原動力となるのは新たな世界を築こうとする強い意思かもしれません。

最初の部屋では、異国の地を取材した作品を展示しています。ヨーロッパはもとより朝鮮半島や中国など、取材の地はさまざまですが、いずれにも共通する動機は異文化への「あこがれ」でしょう。異国の地で描かれた風景や人物画を通して、それぞれの画家がどのような思いで制作に向かったのか、そしてその際の緊張感を、表現を通して共有してみたいと思います。

そして2番目の部屋では、ごく身近なものに対して独自の視点で挑戦している作品を展示しています。日常の風景、花、人々の生活など、私たちにとってごく親しい題材を、画家は作品にします。しかし、それらの表現は芸術家一個人の洗練されたフィルターを通して捉えられたものであり、日常空間であっても鑑賞する私たちに感動や自然の再発見の機会を与えてくれます。それはとりもなおさず芸術家たちが日ごろから発見や新たな題材に取り組もうとする挑戦を弛むことなく行っているからでしょう。さらには、三木富雄の《耳》のように、日ごろ目にする題材を、絵画や彫刻という限定された空間の中で拡大提示することにより、日常を超えた新たな認識を迫る作品なども20世紀に登場します。

3番目の部屋では、芸術家の想像力がいっそう要求されるジャンルを集めてみました。そのひとつが聖書や神話、故事などを題材にした作品です。キリストの善きサマリア人の譬えや古代中国の周統一に貢献した太公望の伝説などは、古くから芸術家に何度もとり上げられた主題ですが、その表現は作者により千差万別で、彼ら独自の視点と解釈は、時としてわたしたちの想像を超えた世界を提供してくれます。他方、空想や夢の世界も、重要なジャンルです。聖書などと同じく、作者自らがその場に立会いながら制作された写実の世界ではありません。それゆえに作者の内面と深く結びついた豊かで自由な世界を体験することができます。

企画展示室第4室と県民ギャラリーでは、「つくる」という行為をつづけることによって生まれた新たな世界をとりあげています。とくに20世紀以降の芸術は、人間や風景など現実に存在するイメージを描かなくとも、絵や彫刻の表現が可能なことをしめしました。いわゆる抽象的な表現です。ここではそのいくつかの局面を、三つの相に分けて紹介しています。これら新たなリアリティーともいえる作品たちは、芸術の域を超えて人間という存在の可能性をも広げてくれているような気がします。

友の会だよりno.66, 2004.7.31

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