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ヨーロッパ瞥見

毛利伊知郎(三重県立美術館学芸員)

9月初旬から中旬にかけて2週間、フランス、スペイン、イギリスを訪れました。久しぶりのルーブル美術館で展示室のリニューアルがずいぶん進んでいるのに驚いたり、日本でも話題になったロンドンのテート・モダンの巨大な建物に目を瞠るとともに、同館のテーマ設定に基づくコレクション展示の在り方について考えさせられたりと収穫は多々ありましたが、旅行の主目的は将来開催できるかどうか検討中のエドゥアルド・チリーダ展などについての調査でした。

エドゥアルド・チリーダ(1924- )は、現代スペインを代表する彫刻家です。彼は主に鉄を素材にした力漲る抽象彫刻で知られ、スペインのみならずヨーロッパ各国やアメリカなどの主要美術館に作品が収蔵され、また各地に多数野外彫刻が設置されるなど、高い評価を受けています。

チリーダに対する評価は日本でも高く、10年ほど前に東京の画廊で個展が開催されたこともあります(その際に三重の美術館でも版画を2点購入しました)。世界的な人気作家であることに加えて、彫刻はほとんどが1点限りの制作であるために、その価格はかなり高価で、残念ながら日本国内でチリーダの彫刻作品を見ることはほとんど不可能です。

また、鉄やアラバスター(大理石の一種)を素材にした彫刻は重量1トン以上の作品も多く、運搬や取り扱いが難しいために、日本での展覧会が可能かどうかについて何らかの手がかりを得たいと考えて、関係者に会ったり、またパリのジュ・ド・ポム美術館で開催されていたチリーダ展の調査を行いました。

作品借用や開催経費の問題を今後解決する必要があり、まだ展覧会開催の結論は出ていませんが、スペインでは思わぬ収穫がありました。

その一つは、バスク地方のサン・セバスティアン郊外のチリーダの個人美術館(MUSEO CHILLIDA−LEKU)を訪れることができたことです。この美術館は、作家自身が所蔵する作品を展示した一種の野外彫刻美術館で、チリーダ家の人々によって運営されています。チリーダ自身は高齢による脳障害などで健康状態が悪く、面会することはかないませんでしたが、娘婿のカルディロン氏からチリーダの近況やこの美術館のコンセプトなどを聞くことができました。

現地を見るまでは、小規模なプライヴェート美術館ぐらいにしか思っていなかったのですが、その素晴らしい環境と質の高い展示は私の予想をはるかに越え、自然と野外彫刻とが調和した空間に身を置いて至福の一時を過ごすことができました。西欧の人々が芸術に寄せる大きな関心、美術館というものの懐の奥深さを痛感した次第です。いつか、友の会の研修旅行で訪れることができればとも思いました。

また、サン・セバスティアンは避暑地として知られる静かな都市ですが、その海岸に設置されたチリーダの代表作《風の櫛》は、街づくりと野外彫刻設置事業が調和した理想的な在り方を教えられました。

この他にも、三重県と友好関係のあるバレンシア州現代美術センター(IVAM)のバラニヤーノ館長やサルバドール学芸員からは、三重の美術館とIVAMとの今後の交流に大きな示唆を受けることができました(サルバドール君からは、夏休みは最低一ケ月はお取りなさいとも勧められました)。

ヨーロッパ各国の美術館の多くが近年運営スタイルを変えつつあることは日本でも紹介されてきましたが、スペインも例外ではないようです。現在、プラド美術館では民間経営の手法を取り入れるかどうかをめぐって議論が沸騰していることが話題になっていました。美術館の成立事情も歴史もヨーロッパ各国と日本では大きな違いがありますが、美術館をめぐる状況が世界規模で大きな変革期にあることを肌身で感じた二週間でもありました。

 

スペイン・ゲルニカの町に設置されたチリーダの作品
スペイン・ゲルニカの町に設置されたチリーダの作品

チリーダ美術館(MUSEO CHILLIDA−LEKU)
チリーダ美術館(MUSEO CHILLIDA−LEKU)

サン・セバスティアン海岸のチリーダ〈風の櫛〉
サン・セバスティアン海岸のチリーダ〈風の櫛〉

友の会だより 58号より、2001.11.30

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