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私の好きな作品

「煙花」古賀春江

1927年|油彩・キャンバス|90.9×60.6cm
 

酒井哲朗〈三重県立美術館長〉

「煙花」古賀春江

境界もない真っ黒い夜の空間にパッと咲く花火

昔の如く静かに物語の王者の如く高貴に華々しく煙火は萬物を蘇らせる
(以下略)

この詩は、古賀春江が川端康成旧蔵のもうひとつの《煙花》(1929)に寄せた解題詩であるが、同じ題名のこの作品についても参考になる。

真っ黒い夜空にパッと咲いた煙花が蘇らせた光景は、遠くの2艘の船、帆船とイルミネーションに飾られた黒い汽船、そして近景の人気(ひとけ)のない街角である。バーかカフェか、赤提灯を吊るしたどうやら飲食店らしい建物の正面が明るく浮かび上がり、かたわらに神秘的な青い花。郷愁を誘う幻想である。モダニズムの先頭をきって走ったこの画家の、土着的な感性の一面をうかがわせる。

もうひとつの《煙花》が、花や少女が描かれて華やかであるのに対し、この作品は暗く物寂しく、煙花がある不在の情景を照らしだしたといえよう。同じ題名で同じ大きさのふたつの作品が、陰と陽の関係にあるようで興味深い。もうひとつの作品が展覧会や画集に必ず登場するのに対し、この作品は長い間記録上知られるのみであった。

ところが、この作品が三重県のある人が所属しており、入手可能と知ったときはうれしかった。美術館にとっては滅多にない掘出物であるが、あいにくすぐには購入予算の都合がつかず、県外の美術館に買い取られる心配があった。仲介の画商さんをはじめ、多くの方々に協力してもらって数年がかりで収集出来た作品であり、このほか思い出が深い。

友の会だより 53号、2000.3.30

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