「川喜田半泥子展」
〈11/14〈土〉-12/20〈日〉〉 県民ギャラリー森本 孝〈学芸員〉
桃山時代には数多くの名品が茶の湯とのかかわりのなかで誕生しています。備前などの例外はあるものの、江戸時代に入ってその陶技も精神も途絶え、近代の息吹を浴びながら蘇ったのは、明治大正を経て昭和10年代になってからのことといえましょう。古陶の研究や古窯の発掘を行い、試行錯誤を繰り返すなかから、荒川豊蔵、金重陶陽、三輪休雪、中里無庵、加藤唐九郎、藤原啓らが活躍を始めます。半泥子が活動した時代は、これらの陶芸家たちが苦闘を重ねた時代と重ねっています。
川喜田半泥子は、明治11年(1878)、三重県津市の素封家で、寛永12年から続く東京日本橋大伝馬町の木綿問屋、川喜田家の16代として生を受けました。以来、百五銀行の頭取、会長などを歴任、経済界で活躍する一方、数奇風流の人として、陶芸、書、絵画、建築、写真など様々な領域で膨大な作品を遺しています。
特にその生涯の精魂を傾けた陶芸は、自由でのびやかな、しかも雅趣ある造形世界を創造しています。井戸、刷毛目、粉引、唐津、志野、瀬戸黒、織部、伊賀、信楽、備前、萩、楽、赤絵など、他に類例がない多彩なもので、しかもそのなかに独自の表現をみせ、作陶遊行の広さと深さを示しています。
本展では、当館に保管された川喜田半泥子の陶芸作品を中心に、半泥子の茶碗を中心とする陶芸作品。絵画、書など60余点とともに、金重陶陽から川喜田半泥子に宛てた手紙、半泥子が収集した陶片などを加えて、半泥子の芸術の一端を紹介し、半泥子が昭和の陶芸界に与えた深い影響の根源を探ろうとするものです。
友の会だより 49号より、1998・11・25