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「平安仏画一日本美の創成」展

毛利伊知郎(学芸員)

我が国の仏教絵画は、古く仏教が伝来した飛鳥時代に始まり、以後、たえまなく近代に至るまで描き続けられてきました。飛鳥奈良時代には、様式的にも、図像的にも中国大陸や朝鮮半島からの影響を強く受け、我が国独自の絵画が作られるまでには至っていません。都が平城から長岡京を経て、平安京へ移った後も、しばらくは、中国絵画の強い影響下にありましたが、次第にその影響も弱くなり、藤原氏を中心とした貴族文化を背景に、平安中期から後期にかけて、我が国独特の、洗練された華麗で美しい仏教絵画が完成されます。鎌倉時代以降も仏画は描き続けられますが、色彩、線描の美しさ装飾技術の華麗さといった点では、平安時代の絵画が極致をなしており、そうした意味で今回の展覧会は、我が国の仏教絵画の最も良質の部分を見ることが出来る貴重な機会と言うことができます。

今回の展覧会には、9世紀の平安時代前期から13世紀初頭の平安末期そして鎌倉時代初期に至るまで、平安仏画の代表的な作品が、おおよそ時代順に展示されています。そこで各時代をおって主な作品と特徴とについて、簡単に説明いたします。平安時代は前・、中期、後期の3つに分けることができます。

前期は794年の平安遷都から、969年の「安和の変」による摂関体制の確立期まで。この前期をさらに9世紀の末を境にして前半と後半とに分けることができます。前半の絵画は弘法大師、空海らの入唐僧によって新しく中国から我が国へ伝えられた、密教と強く結びついています。空海は唐に2年間滞在して806年に帰国し、その際多くの密教図象や曼荼羅を伝えました。密教の尊像や曼荼羅は、儀軌に忠実に従って描かれる必要があり、その結果この時期の密教画は、手本とされた唐の図像や絵画の特徴を強く反映しています。代表的な作品には空海との関係が深い、京都東寺に伝った「真言七祖像」のうち「竜猛・竜智像」、濃厚な色彩とエキゾチックな尊像表現で有名な「伝真言院曼荼羅」や、神護寺に伝わった、巨大な両界曼荼羅「高雄曼荼羅」、奈良西大寺の「十二天画像」をあげることができます。また前期後半は遺品が乏しい時期で京都醍醐寺五重塔の壁画が展示されています。

中期は10世紀後半から、院政の始まる11世紀後半頃までとされ、藤原氏がその確固たる地位を確立し、栄華をきわめた時代に当ります。この時期の仏画は、前期のものが厳格で威厳ある特質を持っていたのにたいして、次第に親しみやすい尊像表現がとられ、柔らかな描線や明るく温和な色彩が用いられるようになっていきます。またこの時期に入ると、密教絵画だけでなく、貴族や宮廷の信仰を背景に、阿弥陀仏を中心とした浄土教絵画や「法華経」信仰にちなむ法華経絵も措かれるようになります。しかし10世紀の遺品は非常に少なく、展示されている作品も、ほとんどが11世紀にはいってからのものとなっています。代表的な作例としては、聖衆来迎寺伝来の「十六羅漢図」兵庫県、一乗寺の「天台高僧像」岐阜県、来振寺の「五大尊像」などがあります。

最後の後期は、11世紀末から鎌倉幕府が開かれる12世紀末までの約100年間に当ります。平安仏画は、11世紀に温か味のある柔らかい色彩表現を特徴として、ほぼ完成の域に達しましたが、11世紀末から12世紀初頭になると彩色による荘厳だけでなく、金箔を細かく切って文様を作る「截金」の技法が好んで用いられるようになり、この截金は急速に洗練の度を高めていきます。こうして優美な貴族文化の極致ともいえる、装飾的で耽美的な傾向の強い作品が生み出されます。しかし12世紀も半ば頃になると、そのような傾向は、早くも変化を見せ始め、またも中国・宋の絵画からの影響を受けて、肥痩のはっきりとした動きのある描線と落ち着いた色彩を特徴とするようになっていきます。このように、この平安時代後期は、我が国の絵画が新たに中国絵画の影響を受け始めるという、大きな変革が起こった、絵画史上重要な時代とされています。平安時代後期の遺品は前期、中期に比べるとその数ははるかに多く内容的にも多彩になっています。代表的な作品、奈良法華寺「阿弥陀三尊像」のほか肥痩のない線描と、優美な色彩華麗な截金文様で有名な京都東寺に伝わった「五大尊・十二天像」や神護寺の「釈迦如来像」などがあり、また宋画の影響が強く現れ、鎌倉時代の到来を教えてくれる代表的な作例として東寺の「十二天屏風」をあげることができます。

以上簡単に各時期の特徴について説明しました。

仏教美術の鑑賞には、歴史的な事柄や仏教図像に関する知識も必要ですが、そうした知識なしでも、十分にその美しさを楽しむことができる親しみやすさを備えているところに平安時代仏画の魅力があると思われます。

友の会だより no.12, 1986.7.10

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