今回ご紹介する資料は、ロシアのウラル地方で採集された煙水晶です。この結晶は、長さ77センチ、径88センチ、質量80キロもある大きな結晶です。煙水晶は、その名の通り、水晶の結晶の内部に黒い煙が閉じ込められているように見えるのが特徴です。この六角柱の形はカットしたものではなく、自然にできた水晶の結晶の形です。
この資料は、かつて旧三重県立博物館のふれあいルーム(実際に展示資料にさわることができる部屋)に展示してあったものですが、さわった子どもたちからは、その硬くてツルツルした手ざわりと冷たい感触から「これって、氷の化石?」というかわいらしい質問が出ます。実は、昔の人々も同じように感じたらしく、水晶は山の中で氷が石化したものと考えられていました。水晶の英名「クォーツ」はギリシャ語の氷を意味する言葉からきています。
水晶は、鉱物名では石英と呼ばれ、地球上の様々な岩石を構成するきわめて一般的な鉱物です。石英が他の鉱物等に邪魔をされない空洞(晶洞)中で成長すると、柱状の規則正しいきれいな結晶になり、水晶とよばれます。水晶は、無色のものが多いのですが、2月の誕生石となっている紫水晶(アメシスト)やこの煙水晶のように有色のものもあります。
煙水晶の発色の原因は、微量に含まれるアルミニウムと天然の放射能が関与しています。煙水晶を加熱すると色が消え、放射線を照射すると色が戻ります。無色透明の水晶でも強い放射線を照射すると人工的に黒くすることが可能で、人工着色された煙水晶も出回っています。
煙水晶は県内でも産出しており、当館でもいなべ市北勢町・大安町、鈴鹿市、四日市市宮妻峡などで産出した資料を所蔵しています。また、三重郡菰野町では、かつて高さ40センチ、周囲80センチ、質量約40キロの結晶が産出したという記録があります。
なお、水晶がクォーツ時計に利用されているのはよく知られていますが、実は私たちが毎日お世話になっている携帯電話やインターネット、自動車のエアバッグ、カーナビ、キーレスエントリー、高速道路のETCシステムなどさまざまな電子機器に使用されています。これは、電圧を加えると、一定の周波数で規則正しく振動するという水晶が持つ性質を利用したものです。水晶がこんなにも現代の情報化社会を支えているということは意外に知られていないのではないでしょうか。 (H)
|